DWIBS法による全身DWI撮影の現状〜なぜSTIRが必要なのか
2017/04/24
このページは、専門家のための医学的な記述となっております。一般の方で本法(DWIBS法=ドゥイブス法)を知りたい方は、こちらを御覧ください。
RSNA2014の機器展示におけるWB−DWIを見て
RSNA2014の機器展示で、全身MRI(DWI)のところを見て回りましたが、「表面の脂肪は(位置ずれがあまりないなら)問題が少ない」という論調に出会いました。最先端の成果を表しているブースで体表面脂肪がかなり残存している画像を複数のところで展示している現況を見て、ショックを受けました。DWIBS法を2004年に発表するにあたって、この問題を解決するのにとくに努力したからです。
Axial断面で観察するだけなら、(決して美しくはないが)大きな問題はない、とは言えるでしょう。ただしWhole Body DWIとして考えた場合、MIPが必要なので、体表の脂肪が残っていたら病変分布を把握し難くなります。
まずAdvanced prostate cancerの3例を動画で示します。リンパ節転移、骨転移、それぞれがどのように見えているか、観察をお願いします。検査の品質が安定していることにも注目してください。
WB-DWI:画質のチェックポイント
以下の3点です。
- 体表面の脂肪が良好に抑制されている必要がある(MIPに使うため)。
- Reformatしても比較的良好な分解能が保たれている必要がある。
- 画像の品質が安定している(RobustなImage quality)。
PhilipsのIngenia (とくに1.5T)は、全身DWIのベンチマークになるものだと思いますので、次に同装置で得られた元画像を掲示します。撮像の際の参考にしていただけたら幸いです。
どの程度の脂肪抑制効果が必要なのか
次に、体表の脂肪抑制の状況がどの程度なのか、元画像(この場合は冠状断)で見てください。この画像の例では、肩のあたりや、腕の映り込み(SENSE artifact;phaseは左右方向)によって画質が劣化している事がわかります。しかし全般的に脂肪抑制が極めて均一であることもわかります。この程度の脂肪抑制が担保されていると、左側の品質のMIP画像が得られる、という関係(相場観)が得られると思います。Philips以外の会社の装置でも、十分にこの程度の脂肪抑制は達成可能ですから、表面脂肪の抑制についてぜひ注意を払ってシークエンスを組み立てて下さい。
↓次に、軸位断(再構成画像)で見てください。同様に、肩のあたりのノイズの上昇、また体幹部部分でのSENSE artifact、また皮下脂肪の抑制の様子をみていただき、画像評価の際の参考にしていただけたら幸いです。
検査全体としてはどのような画像を提供するのか
次に前立腺癌の全身転移検索プロトコールで得られる画像を掲示します。撮影時間の合計は26分間で、検査枠(患者の入れ替わり時間を含む)として40分です。この品質を担保するとまだ30分枠には収まり難い点に運用の難しさがあります。しかし、骨転移とリンパ節転移が同時に分かり、PETの1/6以下のコスト(6回撮影してもまだPETより安価)であるという、圧倒的な有用性があるので、保険で加算を認めていただきたいと思っています(これには皆さんの声が必要で、ぜひお願い致します)。なお、Ingeniaユーザーには、この検査内容のExamcardの配布をいま準備しています。
↓なおTh8にDWIで高信号を認めますが、比較的よい分解能で取得されているので、これが転移ではなく良性の血管腫であることも分かります。
安価なコストで経過観察できる
胸膜中皮腫の経過観察例(これはIngenia 3T)の画像を示します。3Tの場合は、1 stationが2分あまりで撮影できるようになりますが、shimmingの時間も増しますので、全体として1.5Tと同じかやや短い検査時間です。また継ぎ目のdistortionはやや大きくなります。ここで述べたいのは、このように、「繰り返し検査して治療効果を判定できる」ということです。これには画像が安定している (Robustである)ことも重要な要件になります。[なお、3回め以降は、撮像法の工夫がなされ、胸部-腹部のズレが改善されています]
初回診断時はレポートを書くのは大変ですが、治療効果判定の場合(follow up)では、それほどレポートへの負荷がないこと、また、これ全てでPET1回とコストが同じであること、などについて、ここで強調したいと思います。
良好な画質だが、これからの課題も
なお、最後に6例の画像を示します。細かく見ていくと、骨の信号が高い場合とそうでない例、腸管信号がやや目立つ*例があります。こういった問題を解決していくことが今後の課題と言えます。骨の信号やリンパ節信号の抑制は、このWebsite newsに記載されているLancet Oncoloryの論文(ferumoxytolの使用による陰性造影)が注目されます。
*「STIRではかなり抑制効果があるが、それにもかかわらず」、と言う意味です。STIRは、T1値の短いものをすべて抑制しますので、CHESSに比較して下の図に示すようにかなりの腸管信号抑制効果があります。
(上記スライドの使用装置:Intera 1.5T / 4ch SENSE body coil / 2004年)
これから乳癌のスクリーニングが変わります。
[2016年9月追記]
DWIBS法によって、乳癌のスクリーニングが変わる可能性がでてきました。以下を御覧ください。
【まとめ】
- 現状のDWIBS(STIR型)の品質について供覧しました。STIRには(1)均一な脂肪抑制効果と、(2)腸管信号抑制効果があります。
- 脂肪抑制は、体表まできちんと行えていることがMIPに重要です。シークエンスに注意を払うことにより、各社のMRIで達成できます。
- 前立腺癌の転移では、リンパ節転移・骨転移ともに一度で評価できます。この点は骨シンチの有用性を上回っています。
- 無被曝でコストが安い(PETの1/6以下)うえ、、造影剤(注射)不要で、事前安静も不要です。初回診断に加え経過観察に適しています。
- 撮影時間と後処理の手間が通常よりもかかるので、実地的な意味合いで、若干でも保険診療における加算があると普及すると思います。皆さまのご理解と世論形成へのご協力をお願い致します。
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