MRIによる冷え性の研究 〜TBS「名医のTHE太鼓判」で取り挙げられました。
2018/01/02
MRIを撮影できる放射線科医
私は放射線科医(画像診断医)です。普通は、「撮影された画像をみて、診断する」仕事をしております。
ところが私が研修医になったのがたまたまMRIの黎明期でした。研修医は、レントゲンの初歩から習っていくわけですから、いきなり最高峰のMRIを担当するなどということは全くあり得ません。しかしそこは始めの頃のどさくさもあり、「どうしてもやらせて下さい!!」と強く希望したところ熱意に押された格好で教授の許可がでまして、それから2年の長きに渡り、「患者さんを撮影しながらMRIの改良を模索する」という仕事に就かせてもらう幸運に恵まれました。これはいま思い返しても、実にやり甲斐のある仕事でした。
そのような経緯があり、私は世にも稀な「撮影もできる放射線科医」となりました。放射線科医は今日本に7000名余りいますが、自分でくわしく、イマドキの複雑なパラメーターをいじりながら撮影できる現役は、もう10人もいないのではないかと思います。
この技術を用いて、撮影に立ち会ったときには、毎日業務をしている技師さんや企業サポート窓口の最新知識も借りながら、おきまりのメニューだけでなく、必要な撮影を追加して情報を取得するというスタイルで病気を詳しく診断しております。これはMRI診断の本来あるべき姿だと思っております。患者さんの支払う金額は変わらず、しかし中身は既製品ではなくフルオーダーメイドのMRI検査という訳です。
最近は、癌の描出法(DWIBS法・ドゥイブス法)の普及に心を尽くしておりますが、そのほかにもいろいろな道具を持っておりまして、いままでに、奇妙にも見える研究をしてまいりました。
便秘のMRI
その最たるものは、「便秘の人をMRIで判定する方法」でしょうか 笑
・・・まぁ他にもいろんなものがあるのでございます。そのなかで、冷え性についても研究しておりまして、
冷え性のMRI
これは卒研の学生さん(三浦健太朗君)がやってくださった研究です。
同じ20歳の女子学生で、左が冷え性でない人、右が冷え性の人です。サーモフラフィ(カラー画像)では指先が冷たくなっているのがわかりますね。そしてMRIでは、血管が撮影できますが、普通の人(左)は足先の近くまで血流がよく流れているのに、冷え性の人(右)では途中までしか写っていないことがわかります。「冷え性」は主観的なものなのでなかなか診断が難しいですが、MRIの技術を用いることでこうやって可視化できるのです。
MRA(MR血管撮影)は、よく脳ドックなどでも用いられています。しかしここで示しているのは脳ドックで使われているTOF法という通常の方法とは異なり、血流速度と信号強度に比例関係のある撮影法で撮りました。同じMRAといっても様々な方法があり、いろいろと工夫ができるわけなのでございます。
そんなことをしておりましたら、TBSさんからご連絡をいただきまして*、「カラテカの矢部太郎さんが冷え性なので、それを撮影して欲しい」という依頼がございまして、東海大学付属病院にお越しになりました。そして、
*同級生の森田豊先生にご紹介感謝いたします。
TBS「名医のTHE太鼓判」
という番組で紹介してくださることになりました。2017年11月20日(月)よる7時〜ですのでご興味のある方は御覧ください。
(注)矢部太郎さんは思わず、この予告動画の中で「血管がない!?」と叫んでいらっしゃいますが、正確には「血流が(ほとんど)ない!」という状態でございます。血管はもちろんあるのですが、冷え性なので血行がとても悪くて、血流速度がほとんどないので、MRIの検出限界以下になってしまっているのです。概ね秒速1cm以下になっていると推察されます。想像してみて下さい。1秒で1cmも流れないんですよ。温かみが身体の端まで伝わらないはずですね。
温かい靴下の研究
上記の研究から派生しまして、いまは、平田かほりさんという学生が、「保温効果の高い靴下」の研究を行っております。まだ温度計だけの実験結果で、MRAを撮影する前の段階ですが、開発中のこの靴下はものすごく保温効果が高く、足温浴(足湯)の2時間後に、普通靴下では7度近く温度が低下するのに、新潟の靴下会社(株)山忠のものは2度余りしか下がりません。温浴後に2時間も保温効果があるのは驚きで、今から、この靴下を装用したMRA(MR血管撮影)を行うのを楽しみにしております。
なおこの究極の靴下はまだ市販されていませんが、以下のリンクのものは、その原型となったものです。かなり分厚いので室内専用ですが、冷え性の人がおうちで履くには役立ちそうですね。
「とにかくあったかい靴下」
ちなみに山忠さんは、面白い靴下メーカーで「履くだけで、かかとがツルツルになる」という商品もあります。かかと美人になれますね笑
入浴効果のMRI
このMRAのテクニックを利用しまして、以前にはこんな記事も書きました。
私が研究してきた撮影方法は、一見、奇妙に感じられたり、医療として需要があるのか疑問に思われる方もいる事と思います。
例としてあげた、便秘や冷え性などは、そうでない人からすれば「食生活に気をつけたり、下剤を飲めばいいのでは」とか「代謝をあげるために運動したり、体を温めれば解消される」など、大きな病気と比べたら検査するほど深刻な問題ではないような気もすることでしょう。しかし、実際に問題を抱えた人にとっては日々悩まされている無視できない問題です。
実はMRIでは臨床に使われていない「もったいない技術」が他にもたくさんあるのです。撮影の知識を活かして、病の大きさに関わらず、これらを実際の診断の場におろしていきたいと思っております。これからも、皆が幸せになれる為の手助けになるような研究を続けていく所存です。
最後にぜひご覧いただきたいのが、この「無痛MRI乳がんドック」です。
無痛MRI乳がんドック
ウェブサイト
https://painfreemri.com
痛みがなく、造影剤も使用しない、被曝もない、そして浸潤癌の検出能がマンモグラフィより飛び抜けて高い方法を実現しました。どのぐらい感度が高いかというと、約10倍です。2倍とか1.5倍でも十分スゴイはずですが、一ケタ感度が違う、画期的な方法と言えます。デンスブレストの人でも問題なく受けられます。
乳がんのマンモグラフィ検診の受診率はたった37%。どうして63%もの人が受けないかというと、主な(積極的)理由は「痛いから」です。このMRIの元になっている技術(拡散強調画像、そのなかでもドゥイブス法)は、私が納得できない画質で行っている施設が稀ならず認められるのですが、この「無痛MRI」のロゴは、確実な画質を達成した病院のみに対して使用を認めます。
いまはまだ千葉県の一つの病院でしか実施できていません(LINEで24時間予約出来ます)が、全国に広げていきたいと考えております。皆さんのご支援をいただけますと加速しますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
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