放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログ

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乳癌スクリーニング革命(2)〜X線マンモグラフィと超音波検査の限界〜

      2023/09/07

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↑ 前編はこちらです ↑

2016年5月 国際MR学会でのクール教授の講演

さてそれでは、本年5月にシンガポールで開かれた、国際MR学会(ISMRM)におけるクール教授のお話を紹介したいと思います。まずはX選マンモグラフィと超音波検査の限界についてです。分かりやすいように、説明図を付け加えてお話しますね。

「悪性度の高いがん」を見つけることが重要。

Kuhl(クール)先生はいくつかのエビデンス(科学的論文)を基にして話されました。その中で大切なことを紹介します。

ところで、ひとくちに「癌」といっても、すべてが同じ悪性度ではありません。あっという間に発育してしまい、転移を生じてしまうような超悪性度の高いものもありますし、わりとゆっくり発育するものもあるのです。これは実際の社会において、本当の黒幕(超悪人)と、巷の小悪人のような差があることにも似ています。似ていないか・・ (^^::)

当然ですが、悪性度の高いものは、確実に見つけてすぐに治療しないと患者さんが死んでしまいますし、逆に悪性度が低いものは、運悪く捉えることが出来なくても、次の検査のときでも、実は十分に間に合うかもしれないのです。がんを見つける方法(検査)が画像であれ血液であれ「悪性度が高いものをみつけられるかどうか」が一つのカギだと言えるでしょう。

マンモグラフィが見つけられる癌には「バイアス(偏り)」が存在する。

では、マンモグラフィはどうなのでしょうか。マンモグラフィが、がんを見つけるときの画像所見(サイン)は、主に3つあります。

  1. 腫瘤(しゅりゅう=ふくらんでいる部分)
  2. 構造の歪み(Architectural distortion;アーキテクチャル・ディストーション)
  3. 石灰化

このうち、実は、2と3は、超悪人(発育の速いもの)にはどちらかというと認められにくいものだそうです。つまりマンモグラフィが、上記3つのサインでたくさんがんを見つけたからといって、それはどちらかというと、悪性度の低いものを(内訳として多く)見つけたのであって、本来あるべき姿(悪性度の高いものをよりたくさん見つけること)に比べると、少しずれているということになるんですね。このズレのことを、クール先生はバイアス(偏り)と呼んでいました。

ほら、みなさんは善良な市民なのに、看板がとても見にくい右折禁止の場所で、おまわりさんがその先で待っていて次々に切符を切られちゃった、という話を聞いたことや、あるいは経験したことがあるでしょう。あれですあれ。違反を見つけることは正しいのだけれども、軽微なものをたくさん捕まえればそれで全て善しかというと、必ずしもそうではないかもですね。これがバイアスです。

悪性度と増大 シェーマで説明します。

シェーマ(Schema; スキーマ; (医学的な)説明図)を、買ったばかりのiPadで描いたので、これで説明しましょう(使用アプリは「Concepts」)。

下のように、乳癌が発生すると、徐々に増大していきますね。

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その後、悪性度が超高い場合と、それほどでもない場合に分けて書くと、下のようになります。

悪性度が中位の場合(下段)は、腫瘍が増大するけれども、身体の免疫細胞もがんばって癌を殺そうとするので、一部やっつけることに成功します。そうすると癌はすこし縮みますね。だけれども、癌はしつこいので、再度増大をします。このせめぎあいに打ち勝ってだんだんと成長してしまうのですが、その結果、下の右端のように、歪んだ腫瘍の形状を呈することになります。

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これが、「構造の歪み」につながるんですね。石灰化も、こういった修復過程で生じることが多いのです。ですから、「構造の歪み」や「石灰化」をきっかけとして癌を見つけるのは、それ自体は良いのですが、本当の超悪人は、「腫瘤そのもの」で勝負しないといけない、ということになります。

超悪性のものは、免疫細胞が来ても、下図のように腫瘤があっという間に大きくなって、転移までしてしまうのですね。こうなるとかなり大変な治療になりますし、命すら危ない、ということになります。

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実際の画像の見えにくさを説明します。

X線マンモグラフィの診断は、割りと難しい画像診断の部類に入ります。その雰囲気を、やはりiPadで描いてみたので 紹介します(使用アプリは「Adobe Sketch」)。

マンモグラフィはこんな感じの画像です。この絵は、大胸筋に平行に(斜め横から)撮影した画像を模しています。乳腺組織が白っぽく見えていますね。右上のタテの三角形は大胸筋ですが、これを画像に必ず入れないとなりません。入っていないなら、脇の下に近い部分(C’ portion; シーダッシュポーション=腫瘍好発部位のひとつ)の病変を見逃す可能性があるので、撮り直しになってしまうのです。だから、痛くてもしっかり引っ張って確実にこれが画像に入るように技師さんは努力しています。だから患者さんはもちろん大変ですし、「痛い」と毎回言われる技師さんも、仕事柄、プロフェッショナルとして振る舞いますが、心情的には苦労が多いのであります。

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さてここに、腫瘤を発生させてみます。といっても、乳腺組織があるとわかりにくいので、まずは乳腺組織なしで表現してみますね。こんな感じです。これなら誰にでもわかりますよね。だけど実際はそんなに簡単ではないです。

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実際はこんな風に見えるので、その中に映しだされているものをピックアップするんです。慣れればなんとかできる、、、感じですね。

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だけれども、日本人は脂肪が欧米人に較べて少なめで、乳腺組織が濃く写ってしまう人が、とくに若い人に多いです。そのイメージはこんな感じ。

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比較すると下のような感じです。濃い乳腺のことを、”Dense Breast(デンス・ブレスト)”と呼んでいます。デンスブレストだと、見つけるのは至難の技ですね。日本人の若年層では、欧米人に比べてこのようになってしまう確率がより高いと言われています。

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石灰化はこんな感じで、これはマンモグラフィでかなり分かりやすく、威力を発揮します。
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構造の乱れは、かなり鍛錬が必要です。まず概念図を大きくして示すとこんな感じ。周りの組織が(収縮性変化により)引きずり込まれています。

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スケッチだと、こんな雰囲気です。

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わかりにくいと思うので、乳腺を取り払ってみました。下のような感じに、「ある一点に収束しているような歪み」を生じているところを探します。

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 マンモグラフィと超音波の問題点

というわけで、マンモグラフィは、

1) 検出したい腫瘤は、デンスブレスト(濃い乳腺)のときは見えにくい。
2) 日本人の若年層は、デンスブレストがより多い。
3) 構造の歪みや石灰化は、どちらかというと修復機転で生じるので、ゆっくり発育する癌により見られる所見。

という問題があるわけです。1) と3)について、クール教授は話されていました。さらに前項でお話したように、とても少ない線量ですが、放射線を使いますから、BRCA遺伝子変異陽性の人には悪影響を生じ得るという問題もあります。

超音波に関しては、感度は割りと良いのですが、

1) 放射線科医の時間を消費してしまう(一人あたり平均21分かかる)
・・・結果として沢山の患者さんを診ることができない、高額になる。
2) 技師あるいは医師の技量によって検出率が左右される。
3) 陽性的中率(PPV)が低い ≒ がんが「ある」と診断して、実際にはないこと比較的多い。

といった問題点を指摘されていました。

・・・このような背景があるので、クール教授は、「ハイリスク患者は、造影剤を利用した短縮MRIでスクリーニングすべき」としているのです。次はこのお話をします。

 

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