放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログ

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魅力的なプレゼンテーションをするには(日医放 関東地方会)

      2017/04/24

ここでは、「日本医学放射線学会 関東地方会ニュース」(2016/06 No.36)において特集された、「魅力的なプレゼンテーションをするには」に寄稿した内容を、図表を付してお伝えします。(企画は東京逓信病院放射線科土屋一洋先生です。このような機会を与えていただきましたことに改めてこの場を借りて御礼申し上げます)。

魅力的なプレゼンテーションをするには

東海大学工学部 医用生体工学科 高原太郎

【生い立ち】

プレゼンテーションには、定型的な学会発表(5〜7分)と講演(20〜60分)、また演壇縛りかTED形式か、でアプローチにかなりの違いがありますが、ここでは基本的な共通項を中心にお話をしたいと思います。以前発刊した拙著「PowerPoint疑問氷解」の図表もここに貼りたいと思います(説明順序の関係で、すこし前後します)。

私は、父が大学教授、母が小学校教諭、妹は成人して中学校教諭となるような「先生一家」で育ちました。幼少時からテストの丸付けをさせられたり (^^;)、教え子が家に遊びに来ると「太郎、みんなにお話しなさい」などと言われ、星空の説明などをしていました。このため、Nativeに、ナチュラルに、人に話をすることを学んだと思います。

【心構え】

その経験から言いますと、プレゼンテーションは、とにかく「伝わる」ということ(だけ)が目的といって良いです。ですから、カッコよくやりたいとか、流暢にやりたいとかは二の次で、どちらかと言えばフレンドリーに、気の置けない*仲間にしているかのように行い、(1) 相手に思い出してもらえるプレゼンで、(2)かつその時間を学術的にほのかに楽しんでもらえることを目標をするのが理想だと考えています。

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「ピリピリした感じ、速過ぎるトーク」が、私は個人的には一番良くないと思っています。まぁこれは「俺は、私は、できるぞ」オーラみたいなもので好ましくありません。この心構えが一番大切です。あとはすべてここから発展していきます。

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*気の置けない=他人行儀な距離感がなく、 ことさらに気を遣ったり気兼ねしたりする必要がないほどに親密であるさま

 

Q1 聴衆を惹きつける話の組み立て方や、実際の話し方で気をつけていることは何ですか?

1) 話す速度は350字/分です。基本プレゼンでは決してこの速度を超えないようにします。これができるようになったら緩急を会得しますが、最初の「350字/分」ペースのマスターが肝要です。

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松田卓也先生の言われるところの、「伝達量最大の法則」を意識する必要があります[図1]。

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上記の図では、横軸が、話す「量」となっていますが、制限時間内の量なので、それは速さ(1分間あたりの文字数)と同じことですね。

2) めちゃくちゃ練習する。

駆け出しの頃の発表前は、とにかく練習に次ぐ練習をしました。自分の発表内容を、限りなく完璧に伝えたかったので、無駄が少しでも省けるように、エッセンスだけを時間内に伝えられるように、抑揚や、言葉の間、指し方、など、満足するまで飽きることなく練習をしました。

皆さんは、カリスマ的に危なっかしく(?)楽しい講演をする市川智章先生の講演を聞いたことがあるでしょうか。彼の講演を聞いた人は、市川先生が何を話したのか、講演後かなりしっかり憶えています。たとえ、自分の知識が足りなくて分からなかった人も、「とにかくこれは大切なことだから、メモしたことは理解できるようになろう」と必死になることでしょう。私が目指すプレゼンの到達点のひとつがここにあります。

その市川先生と、プレゼンについて話す機会が10年余り前にありましたが、彼も若い時は「死ぬほど」練習していたことを知り、やはりそうか、と意を強くしました。「ただただ、伝えたい」・・・その純粋な、熱い思いが、あなたを練習へと駆り立てることでしょう。

[但し、文末に注意点あり]

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3) 目を見る。

小さなグループで話すときには相手の目を見ますね、その感じなのです。数千人の聴衆を相手にするプレゼンでも、まったくこれは同じです。不思議な事に、見回すとなぜかうなずいてくれている人(笑)がいるので、その人だけに目をあわせればよいのです。その人はあなたの味方です!

4) 的確に指すゆっくりと、確実に、そこだけ(ポインターの点灯・消灯を確実にする)。

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これは、文では伝えにくいので、センスのない人(ごめんなさい!)はセンスのある人にしつこく指摘してもらいましょう。「しつこく言ってくれてありがとう(涙)」ぐらいがちょうど良いと思います。

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なお、ポインターは、指す道具としてはあまり良いものではないので、指したいところに「→」、「◯印」、「自由曲線で引いた囲み印」 などを入れておくと、事前の準備はかかりますが、圧倒的に分かりやすくなります。

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ちなみにポインターは、緑の物を使いましょう [旧ホームページ:緑のポインター]

5) 制限時間をたったの1秒も超過しない

これは松田卓也先生の「憎しみの曲線」[図2]を参照してください。制限時間を超えると、憎しみを生じてしまうのですね・・・ (^^;;;

スクリーンショット 2016-06-11 11.28.38350字/分で制限時間内に説明できないものは、すべて潔く削除します。まず原稿を350字/分にすることで、あなたの圧縮力が磨かれることでしょう。

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ちなみに、あなたが制限時間を超過すると、以下のようなことも惹起しているんですよね〜・・。

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6)言いたいことを象徴する、研究分野以外の写真(風景、自然、真理、物理)をごくたまに入れる(@講演)

これにより、聴衆の脳の中に、印象が形成され、忘れない効果をもたらします。「伝えて」「覚えて」もらいましょう。

 

7) 「意外性」幸運にもその研究で得られているなら、「本当に意外だった!」という悦びを身体全体で表現する。

僕らはそれを見つけることを夢見て研究をしているようなものだから。

そのときは嬉しさを表現しましょう!大きな共感が得られることでしょう。このあたりは、研究の醍醐味ですねぇ。きっとあなたにもいつか訪れますよ (^^)

Q2 準備するスライドでいつも工夫していることは何ですか?

1) スライドのアニメーションはものすごく必然性がある以外、まず使わない。

95%のアニメーションは有害でしかありません。あれを入れて役立っていることはほとんどの場合ありません。時にはアニメーション効果がたくさんありすぎて気になり、内容に興味がなくなることすらあります。

2) 項目リストすべて見せて一部をハイライトする。

項目リストは、特段の事情がない限り、すべてを見せることにより、聴衆は「これから話すこと」を先読みして準備できます(理解しやすくなります)。この例では、3番めの「残渣勾配」を話しているところですが、あと2つ話すんだなと思って聞いています。

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最初にリストを見せないで、徐々に増やすのは最悪です。これでは脳が準備できません。わざわざわかりにくくしているようなもの。以下のようにしている人は注意をしてください。

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3) 適切な余白、大きな文字

「なにゆえにあなたは、そんなに無駄な余白と小さい字?」と感じること、よくありますよね。みにく〜い。

とくに、日本人は、部屋の後ろのほうに座るでしょう。それもなんだかなぁですが(だって聞きに来ているのに、意味不明ですよね)、字が小さいのは、後ろの人が見えないスライドを作っていることと同じですから、敢えて聴衆の数を減らしてしまっていますよね。

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4) 複雑を単純に見せる配慮

表などは、工夫する場合とそうでない場合で、聴衆への浸透度合いが全く異なります。ここは努力のし甲斐があるところです。

これは数字を示した表ですが、右のようにしたほうがわかりやすいですね(注:色に関しても注意。カラーバリアフリーにするために、濃赤は使わず、明るめの朱色を用いましょう)

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もっとシンプルにしても良ければ、上記は◯☓で表現できますね。

その場合、数の多いほうの「◯」は削除したほうが、余計な情報がなくていいのです。あなたは「AとCに不正を認めた」ということを話すことになります。左の表と比べると圧倒的にアピールします。

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本当に複雑な表は、話で触れる部分だけハイライトしましょう。線を引いたり、四角の中身をオレンジ色にして、透過度を上げるとわかりやすくなります。

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5) 「スクショまとめ法」(@講演)

「まとめ」スライドは、プレゼンのエッセンスを箇条書きにするのが常ですが、講演の場合は内容が豊富ですから、敢えて文字ではなくて、講演で使用した重要なスライドのスクリーンショットを撮り、4分割に貼り付けて、「まとめスライド」として再掲する方法です。5年ほど前に考案して始めましたが、これは極めて効果的で、大きな余韻を残すことができます。思い出していただくのに最適。

これは、サムネイル表示にしたプレゼンの最後の部分です。最後の2枚が「まとめ」スライド。このプレゼンでは「8つの重要スライド」を思い出してもらいました。

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拡大するとこのような感じです↓

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以上、

(1) 相手に思い出してもらえる

(2)かつその時間を学術的にほのかに楽しんでもらえる

プレゼンに役立つコツについてお伝えしました!

(了)

 


[PS] 練習をするときの注意

練習は、前に聴衆がいると思って、声を出して行うのですが、プレゼンの48時間前ぐらいからめちゃ頑張ると、実は声が枯れてしまいます。まぁそのぐらい練習するわけですが、実際に枯れてしまうとまずいので、喉がちょっとヤバイなと思ったら、あとは小声で練習をするようにしましょう。、このあたりのさじ加減も、たくさん練習すると分かってきますよ。

[PS2] 藤本肇先生の寄稿

この「関東地方会ニュース」には、沼津市立病院放射線科の藤本肇先生も寄稿されているのですが、このWeb原稿を書いた後に、地方会ニュースのPDFが届きましたので、早速拝読したところ、同じような努力をなさっていることに、本当にびっくりしました。やはりプレゼンには共通する極意があるようです。

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