放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログ

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BMW i3 長距離試乗レポート その2

      2017/04/24

ではっ試乗の感想です。これは、僕の興味に従って、以下の4つについて書きますね

  1. アクセルペダルによる加減速の特性
  2. 高速道路ではどうか
  3. ワインディングではどうか
  4. 航続距離とレンジエクステンダーはどうか

1. アクセルペダルによる加減速の特性

これはですね、非常にカンペキです。BMW i3では、誰でも、胸のすく加速とワンタッチ減速を味わうことができます。

1速しかないというエンジニアリングのスゴさ

これがどういう意味かというと、ギアは1速しかありませんから、「常にローで(力強い)加速」できる能力を有するとともに、「常にローで(力強い)減速」をする能力も同時に併せ持つということです。

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BMW i3のインパネには、速度計はあっても回転計(タコメーター)はありません。多段変速機構を持ちませんから、速度と回転数は常に一定の関係にあり、表示することに大きな意味が無いんですね。

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テスラ・モデルSでもこれは同様です。EV黎明期の傑作(?)テスラ・ロードスターでは、こんなふうに「外側のスピードメーター」と「内側のタコメーター(x1000rpm)」が同心円状に記されています。メーターの針がひとつであることからも分かるように、1:1対応しているのです。普通のクルマでは何速に入っているかで回転数が変わりますが、テスラ・ロードスターでは、時速55kmならモーターの回転数は必ず4000回転。モーター回転数リミットである14000回転が、最高速200km/hを決定づけているのも面白いですね。

スクリーンショット 2015-05-12 10.45.40

車好きの人の中には、「AT車がすごくなった今でも、MT車が相変わらず好き!」という僕のような人も多いと思います。デュアルクラッチのような高度なATシステムがあったとしても、「シフトダウン→急速な加速」や「シフトダウン→強いエンジンブレーキ」などにおいて、やっぱりMT車のほうが楽しいなという気持ちがあるんですね。ギアがどこに入っているか常にフィードバックがある。

その真髄はなにかというと、究極的には「即応性をコントロールしている喜び」ということになろうかと思います。「マニュアルで繰る(コキコキやる)」という、根源的な楽しさ、ゆっくりやっても楽しい感じ、はもちろんあるのですが、一番の芯の部分はなにかといったら、やっぱり「即応性」なんです。換言すれば、「アクセルに対する反応を、常に能動的に確実に自分がセンスしていること」でもあります。

即応性のもたらす究極の俊敏性 ーアクセル・ディセルペダル

この意味において、BMWのアクセルペダルは大変優秀です。さらに、”Acceleration“(加速)だけではなくて”Deceleration”(減速)も制御できるペダルなので、加速も減速も即応するんです。僕は、こういったペダル機構は、「アクセルペダル」ではなくて、「アクセル・ディセルペダル」と呼ぶべきだと思っています。

MTのことを3ペダル(アクセル・ブレーキ・クラッチペダル)、ATのことを2ペダル(アクセル・ブレーキペダル)と呼ぶことがありますが、この意味でこのEVは、通常走行ではブレーキペダルを踏まないので、実質的な「1ペダルドライビング」を達成しているんですね。

MT? You can forget it.

「それはつまらないのでは?」と感じる人はぜひ一度試乗してみてください。完璧にタイムラグがゼロ(変速をそもそもしない)なので、加減速の程度を瞬間的にコントロールでます。ペダルを踏み変えなくて良いこともあり、結果として究極の俊敏性(ultimate agility)を持つドライビングを提供するという、きわめて斬新な価値観を創出していることが分かるはずです。これについては、岩貞るみ子氏のモデルSの論評も参考にしてください。

ところでこの「アクセル・ディセルペダル」は、BMWが初めてなのではなくて、真に革命的だったのは、テスラ・ロードスター(そしてそれに続くテスラ・モデルS)です。この革命的な方法は、テスラが特許を開放したことにもおそらく関連して、今後広まっていくと思います。

テスラに比べると、BMW i3のそれは、立ち上がりにわずかなラグがあります。特許に遠慮する必要はなく、システム的に難しいわけではないでしょうから、これはおそらく意図的なもので、i3が(エコのために)細いタイヤを装着していることと関連があるのではと思いました。つまり優れた初期応答特性そのままに出力するとグリップが持たずスリップするので、トラクションを立ち上がり時に予め抑制*しているように感じました。・・しかしこれはフル加速状態をテスラと比べないとわからない程度のもので、i3の即応性は極めて優秀であって、なんの問題もありません(=エンジン車とは比べ物にならないほど優秀)。

*トラクションコントロールが(受動的にスリップを検知して)作動すると、一旦パワーダウン→スリップ収束→再加速の過程が必要となり、さらにタイムロスとなる。

ブレーキペダルに回生機構を組み込むのはナンセンス

古い評論のなかには、プリウスのように、「ブレーキペダルに回生機構を組み込まない」ことが、技術レベルが低く、かつ欠点であるように書いてあるものもあります。いろいろな場所でのコメントで、そういう批判も散見されます。しかしこれは僕は決定的にミスリードだと思います。なぜなら、まず、いちいちブレーキに踏み変えるという動作は、機動性(アジリティ)にマイナスです。また、「アクセル・ディセルペダル機構」がありさえすれば、(パニック時やスポーツ走行時を除いて)完全停止の際にわずかに使用する程度で済むだけのフットブレーキにわざわざ回生機構を組み込むのですから、構造が複雑になり、コストが上がり、車が重くなります。エンジニアリングとしては、シンプルな「シングルギアで強い回生力を持たす」ことが正解だと思います。

モーターは、0rpmのときにも100%トルクを発生します。トルク ✕ 回転数 が馬力です。エンジンは、アイドリング時や1500rpmぐらいだと、トルクはかなり小さいです。だからEVは、信号が青になった瞬間でも、「ひょい」とか「ひゅん」とかいった小気味よい加速をします。この気持ち良さは、バカ見たくアクセルを踏むような特殊な状況ではなく、毎日毎回、おびただしく繰り返される普通の加速シーンにおいて「常に喜びを感じられる」というすごい特長でもあります。みなさんは、新型のプリウスが加速時に俊敏なのを知っていますね。モーターが小さいにもかかわらずあんな風になるんですから、すべてがモーターだったらはるかに素晴らしい「ひょい!」ができるんです。BMW i3を買うと、ずっとその特性を享受できるということになります。

モーターにも死角はある

これはオマケですが、ではモーターに死角はないのでしょうか。それはないわけではありません。モーターは、テスラの場合は14000rpmまで回りますが、6000rpm以降ではトルクは100%ではなくなります。つまりオイシイところではなくなるわけです。もしBMW i3なりテスラが、2速機構をもったら、これは例えば130km/h以上でもすざまじい実力を発揮するでしょう。しかしシングルギアシステムでは、こういった領域では加速は鈍ります。(図はBMW i3のトルクと馬力 vs 回転数)

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ただエンジニアリングとして、2速にするということは、「変速をする」ということですから、その境界領域においてはタイムラグを生じるし、また車も重く複雑になるので、シングルギアが選択としては実用的ということになるんですね。この割り切りを自信を持って行うことは、最初は難しかったでしょうね。しかし非常に大きな成功を収めました。考えた人はスゴイです。

僕はドイツ仕様(アウトバーン仕様)として2速のクルマがあってもいいのではと夢見たりします。だってあそこでは、速度無制限区間の推奨速度(経済速度)が130キロなんですから。

ちなみに、さらに余談ですが、たぶんP85D(dual motor)は最終減速比を変えているので「より強大なパワー」と「ハイギアードな設定」の組み合わせで、前者により強烈な0-100km/h加速を、そして後者により最高速(と高速での加速性能)をアップしているんですね。あ、BMW i3の話にもどりましょう。(続く)

 

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