放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログ

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あなたはファストドクター

      2019/05/26

プロローグ

カナダの学会から帰国の途に就いた私は、たまたま機内で寒い席に座ってしまい、震えながら土曜日の午後に成田に戻ってきました。身体の血の巡りが悪い感じがして倦怠感もあり、それを吹き飛ばすつもりでプールに行きましたが、身体が暖かくはなったものの、なぜかゾクッとする感じもありました。

翌朝(日曜日)を迎え、かなりだるかったものの、朝9時からのライザップトレーニングも予定通りこなしました。しかし、その後どうにも具合が悪くなり、体温を測ってみると37.8度、そして2時間ほどで38.5度の高熱になりました。この程度なら大丈夫と、解熱剤を使用せずがまんできましたが、困ったのは、翌日、担当の授業があることです。

・・・インフルエンザかどうか、確かめなくてはなりません。

インフルならもっと高熱のことが多いですし、また日付は5月19日ですから全くの季節外れです。しかしあとからインフルエンザであったことが分かると、学生の集まる大学ですから、かなり大変なことになります。どうしても、日曜日の今日中にどこかで検査してもらはなくては、、と思いました。

13時00分 日曜午後の困惑

いまはスマホで簡単にいろいろな病院のことを調べることができます。パソコンで行えば地図などの表示に利があり、能率が良いことは分かっていても、具合が悪くて開ける気になれず、スマホで検索を続けました。

日曜日の午後ですから、条件はかなり悪いです。しばらくの検索の後に、日曜日開いている病院が家の近くに見つかり、電話してみました。

電話はかかったのですが、自動応答です。みなさんも経験あると思いますが、ものすごくものすごく長いお話を聞きながら、何度もボタンを押していきます。

いろんなトラブルを避けるための注意点を、すべて良く聞きます。はい、わかります。わかっていますとも。そんなにクレームつける人いるんだ。世知辛いなぁ。

13時30分 自動応答のお返事

高熱に苛まれている者にとってはかなりの労苦の道のりの末、自動応答が最後にこう言いました。

「それでは、ご希望の時間をプッシュしてください」・・・「1・4・0・0」
「その時間には空きがございません。受付とお話になりたい方は1を押してください」

・・・まじですか。他の時間を提示する機能はないの? これじゃ自動応答に答えるの馬鹿らしいよぉ。具合悪いのにちょっと泣きたい (T_T)

でも、とにかく受付さんがでてくれました。ここは人間の温かみに限る!

(とても優しそうな声♪)「どうなさいましたか」
「あの、高熱がでてしまいまして、インフルエンザかどうか検査していただきたくてお電話をしました。診ていただくことはできますでしょうか。」

(すごく気の毒そうな声)「そうなんですか・・・今日はあいにくと、18時まですべて埋まってしまっておりまして」

「そうですか、、、。えっと、私、医師で、大学に勤務しております。明日授業があるので、今日中にインフルエンザかどうかをどうしても調べる必要があって・・・お時間をかけないようにできますので、お願いできませんか」

「お医者様なのですか、わかりました。そうしましたら院長先生にお話してみます。またお電話しますのでお待ち下さい」

・・まぁ、医師であることを語って、ちょっと「ずる」かも知れないと思いますが、同業者はお互いのつらさを知っていて、また情報のやり取りはプロ同士ですから超早いので、時間のないときでもパッと融通をつけてくれることがあります。

その後、すぐにかかってくるかなと想像していましたが、きっと殺人的に忙しいのでしょう、思いの外、待つことになりました。

15時00分 1時間半後

1時間半後、電話がかかってきました。待望の病院からです!

「あ、高原さんですね」
「はい」

「すみません、実は、話してみましたが、やはりダメということでした」
「あ、、(ちょっと絶句)。 そうでしたか・・・わかりました。ありがとうございました」

考えてくれただけでもありがたかったですが、多分大丈夫だろうとも思っていたので、かなり、がっくりきました。

 

同時に、現実が襲ってきました。

・・・いまからどうしてもどこか遠いところまで行かなくちゃならないんだ。

 

自分の大学(病院)は、自宅からは1時間以上離れていますので、ちょっと考える距離ではありません。

総合病院の救急外来ならどこかで診てもらえることと思います。しかしたぶん相当待つことにはなるでしょう。

準備して行って1時間。そこから2時間ぐらい待って診察してもらい、会計して薬をもらうのに1時間、そこから帰ってくることになります。行って帰ってくるだけで、だいぶ体力を消耗するはずです。

38.5度だから大したことはないとはいっても、「具合が悪くて、つらいな。診断が要らないなら今日は寝ていたほうが良くなるのに。なんとかならないだろうか」、と切に思いました。

15時20分 救世主

そして、また「病院 日曜」などの検索語を入れてみたのですが、こんどは、検索リストの上に「Fast DOCTOR」という広告がでました。それはこんなものです。

えっ、往診?

往診!!? そんなことができるのか・・・。

自分は、若いときに栃木の田舎の診療所(塩野室診療所)に勤め、そのときに往診をしていたことがあります。

自分の医療の原風景で、本当に懐かしく、すばらしい、やりがいのある思い出です。おじいさん、おばあさんが、自分の、一週間に一度の診察を待ちわびてくれていて、腕をさすり、聴診をして、血圧を測って、お話をして、安堵の顔を浮かべていただく、あの往診。1910年のハレー彗星が来た時のどんちゃん騒ぎ(空気がなくなる)も直接聞けました。

いつかまた、あの仕事をしたいと思っています・・・。わぁ〜っと、思い出がこみ上げてきました。

 

・・・我に返ります。

でも、往診といえば、診てもらうのは、おじいさんか子供だよな。

自分が頼んでいいんだろうか。

・・・ここ、普通なら、(笑) って書くところですが、腰砕けになったように感じた自分がいました。

いつもは、自動的にでてくる広告はとてもうざいものですが、今回ばかりは、ありがたかったです。

でも込んでるんじゃないかな・・・。

恐る恐る、もう一度見てみます。

表示は以下のようなもので、その時には、東京は「17:30頃から到着できます」というふうに書いてありました。
しかも保険適用って書いてある。

 

15時30分 すばらしい電話対応

・・・半信半疑で電話してみました。

すぐにオペレータさんがでます。

「はい、ファストドクターのオペレーターの〇〇と申します。どうなさいましたか」

「あの、私、高熱がでてしまいまして、インフルエンザかどうか調べてもらって、おくすりももらえたら良いと思っているのですが」

「わかりました。もうすこし症状をお聞かせ願えますか」

・・・筋肉痛や関節痛が少しあること、食欲はあまりないこと、水分は摂れていること、熱型や経過などについて伝えました。

「承知しました。そうしましたら、どのぐらいでお伺いできるか、お調べしますので、一旦電話を切っておまちいただけますか。おそらく15〜20分ぐらいの間にはご連絡できると思います。」

「わかりました。ありがとうござます」

・・もう、素晴らしい応対でした。話す速度は1分間に350字(笑)、完璧な速度、優しい言葉遣い、相手を思いやる気持ち、よどみや言い間違えもない、すべて揃ったすばらしいオペレーターさんでした。

 

15時45分 15分後

15分後、電話がかかってきました。待望のファストドクターからです!

「高原様でございますか、さきほどお電話した◯◯でございます。お伺いすることができまして、17:35〜18:05ごろの間に到着することと思います。ドライバーがお宅を見つけますので、目印を教えていただけますか」

・・目印をお伝えしました。

「承知しました。それでは、わからない場合は高原さまの携帯にお電話いたします。到着までの間、おつらいでしょうがしばらくお待ち下さい」

そうして電話が切れました。

17時15分 1時間半後

予定より早く、玄関のチャイムが鳴りました。

玄関の向こうには、30歳ぐらいの若いお医者さんがいました。重そうな大きい黒いスーツケースと、もうひとつバッグを持っています。

 

いい大人が、なんだかすごい恥ずかしかったのですが、とにかく寝室に来ていただきました。寝ているのも恥ずかしいですが、具合が悪いのでときどき寝ながら話します。

医者同士だから、あっという間に症状や経過などをお話し、理学的所見(聴診など)を取ってもらいました。

 

そしてインフルエンザの検査です。鼻の奥に入れる痛いやつ。

オエッとなりながら、検査結果を待つことに・・・と思ったら、見る間に結果がでました。

Cのところの線はコントロール(比較のための目印)で、AまたはBのところに線がでたら、それに感染しているので、B型インフルエンザということになります。

 

意外。それほど高い熱でなくても、インフル罹ってたんだ。

自分はもう10年以上、罹患していなくて、少しでもおかしいと思ったら1時間に1回うがいをしていれば大丈夫と信じていて、予防注射もしない人なので、びっくりでした。機内で乾燥して寒かったからなぁ・・・トホホ

 

17時30分 イナビル服用

さっそく、スーツケースの中から出していただいたイナビルを頂いて、服用。瞬間的に治療。

結局、以下のことをしていだきました。

1)初診
2)往診
3)インフルエンザ検査
4)インフルエンザ治療
5)飲み薬(無料;鎮咳剤、去痰剤、解熱鎮痛剤など)
6)診断書作成

これで会計は、15200円でした(保険適用後の支払い総額)。クレジットカード決済可。

病院まで出かけて往復4〜5時間の辛さ、病気の悪化、治療までの時間の早さ、を考えたら、夢のようです。

だって自分のベットで話せて、治療をすぐに受けられて、診察後すぐに眠ることができるんですよ。

日頃は健康で、健保のお金はほとんど掛け「捨て」のような状態です。「まぁ誰かの役に立っているから良いか」という考えでしたが、こういうときの保険適用はありがたいなぁと思いました。

先生に質問!

先生にはいっぱい疑問があります。たくさんのことをお伺いしました。

・いまはどこにお勤めですか(都内の総合病院です)
・これはアルバイトみたいな形態ですか(はい、そうです)
・時給はいくらぐらいですか(ウェブなので敢えて明示しませんが、普通の外勤のときの時給と同じ)
・今日は何時から何時までのバイトですか(14時〜22時)
・どんな方が頼まれますか(お子様が2人いらっしゃる方などが多いです。一人を病院に連れて行くときに、もうひとりを連れて行くと感染してしまったり、面倒を見るのが大変なので)
・どんな病気が多いのですか(やはり上気道感染と胃腸炎といった感じです)
・胆石などの発作のときもありますか(事前に電話で症状をお伺いするので、胆石発作が疑われるようなときは救急車をお勧めするようです(=高原注: それはそうですね))

とっても優しそうな先生でした。

私が以前していた往診と違うのは、クラシカルなドクターバックを持った看護婦さん(当時)がいないこと、先生が自分でスーツケース(!)とバッグを持ってくること、ドライバーさんは外にいて(見なかったけど)看護師さんではないこと、です。

・・・メールの交換までさせていただき、呼吸器の先生だというので、DWIBS法による肺がんの経過観察の話や、オプジーボの治療効果判定もできます、などの話もして(笑)、
先生は17:45ごろお帰りになりました。

「来てくださって本当に助かりました。ありがとうございました。」

自分の気持を伝えたくて、何度も何度も、お礼を言いました。

18時00分  37.0℃

先生が帰ったあとで熱を測ると、37.0度にさがっていました。うそ、もう治ったのか、そう思いました。本当に信じられない思いでした。

実はその後、再度、徐々に熱が出て、38.2度程度になりましたが、翌朝目が覚めたときには、36.5度になっていました。

 

「寝過ぎで背中が痛い」というのが、その朝の一番の困りごとでした。

 

エピローグ

私が経験したことは、それまで全く知らずにいた、夢のようなことでした。「こんなすごいサービスがあるんだ、すばらしい」と思いました。

こうしてここに書くことで、利用者が増えすぎて、うまく回らなくなってしまうことは心配ですが、こうしたサービスがあると本当に助かる人もいると思います。今回の私は、日曜の午後というかなり条件の悪い中で、具合が悪いこともあって病院受診を前向きに考えることができない状態でありました。こうしたつらい最中に手を差し伸べてくださるサービスだったと思います。

東京・千葉・埼玉だけのサービス。医師偏在の社会問題も透けて見えます。

友人からのメッセージ

FaceBookに、「往診してもらえた」と簡潔に書いたところ、友人たちがMessengerで連絡をくれました。

「今、往診やってくれるドクター👨‍⚕️を探していまして、こういう時にもいいよなぁ〜と思いました。」

「私は母子家庭で、以前、自身がインフルになった時、息子を友人に預け、フラフラしながら病院に行った経験があるので、その時も往診でインフルの診断が出て、お薬出ればなぁ〜、その時は「金はナンボでも出すから‼️」と思っていました😂

「この間も発達障害のお子さん持つお母さんが「病院連れていくと息子が暴れるので、往診できるお医者さん知りませんか?」という相談を受けていて小児で往診できるドクター探しをしておりました。」

・・・このような声があります。全国このようなサービスが、本当に必要な方のところに届けば良いなと感じます。メッセージ本当にありがとうございました。

 



そんなわけで月曜はは法定のお休みになってしまい、大学の授業(実習)は来月に延期してもらいました。そのほか卒研や、たくさんの会議を、全てZoom(ウェブ会議)で行いました。本当に便利な世の中になりました。おかげで静養しながら、なんとかこなすことができました。支えてくださった大学と会社のスタッフ、また励ましてくださった友達のこと、本当にありがたく思っています! 

写真は、火曜日の解剖実習で行った、自宅と大学をZoomでつないだ「遠隔授業」の様子です。このように、資料を表示しながら、自分と相手を見ながら話ができます。教育関係者のご参考までに。

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