天覧山の遠吠え
2018/06/14
セクション1: 天体観測と天覧山
私が中高時代に熱中したことは天文部です。小学6年のときに仮性近視(視力0.8)になりましたが、中学で天文部に入ってからは毎日のように夜空を見上げていましたから、毎年測るたびに視力が向上し、数年で両眼とも2.0にまでなりました。そのぐらい星ばっかり見ていた時代があります。
星の知識を得ることにもやたら貪欲で、月刊誌「天文ガイド」の発売日は、端から端まで、徹夜で繰り返し読み漁り、翌日は部室で、他の部員とどのぐらい知っているかを競ったりしていました。学業のほうはさっぱりでしたが、幸いやることは毎日あって、楽しく過ごしていたのです。
天文部では、毎月、新月の近くになると、土曜の夜などに観測会を催します。都会の天文部ですからかなり郊外にでなくてはなりません。また中学、高校生なので車は使えません。このため、少し本格的なときは、京王八王子からバスと徒歩で行ける陣馬山に行きました。
また近場では、西武池袋線の飯能駅近くの天覧山という、200メートルに満たない丘のような山で星を見たりしていました。
セクション2:Aくん
はっきりと「天文部に入っている」というわけではなかったのですが、Aくん(仮名)という、理科全般に広い見識を持っている同級生がいて、彼も星には興味がありました。その日は彼も天覧山にきました。
残念ながら当日は曇りがちで、歌を歌ったりダベったりが主でした。でもまたこれが、バカ話をしたりして、面白かったりするのですね。
まぁだから天文部というとオタクみたいに思うでしょうけど、フツーの山岳同好会の軽い版(でも望遠鏡が重い)みたいなグループなんです。
さてKくんは、昔で言うところのバンカラな感じの生徒で、軍隊風の言葉も冗談で使います。突然深夜に何を思ったか、
「諸君〜!これから〜 はっ せい れん しゅう (発声練習)をする〜っ! 一同ここに並べ!」
と宣いました。皆はKくんのいうままに面白おかしく整列します。
Kくん、足をちょっと広げて立ち、胸を張って、手を後ろに組みます。応援団が応援する時のあのポーズです。深く息を吸った次の瞬間
「うおお〜〜〜」
と叫びました。深夜の天覧山の頂上から、彼方に向かって、叫んだのです。そして僕らにも、続けて叫ぶように言いました。
「うぉ〜」
「なんだ、その軟弱な声は!」
「声が小さい!!発声はじめ!!」
「うおお〜うおお〜うおおおおおおおおおお〜〜〜」
「うおおおおおお〜〜」
「うお〜うお〜おおおおおおおおおおおおおおおおおお〜」
面白くなって、声を限りに雄叫びを上げました。
「うおお〜うおお〜うおおおおおおおおおお〜〜〜」
「うおおおおおお〜〜」
「うお〜うお〜おおおおおおおおおおおおおおおおおお〜」
次の瞬間です。
・・・信じられないことが起こりました。
セクション3:ウォーン
「ウォーン」
?
「ウォーン」「ウォーン」
「キャンキャン」
・
・
・
・
「ウォォォォオーン」「ウォォォォオーン」「ウォオーン」
「ワンワン」「キャンキャン」「ウォーンウォーン」「オオオオオオーン」
「オオオーン」「ワンッワンッ」「ワンワン」「キャンキャン」「ウオーン」「ワンワンワンワン」「キャンキャンキャンキャン」「オーンオーンオオオオオオオーン」
ええっ、ええっ。
えええーっ!!!(@@)!
あり得ません。信じられません。
遠くにみえる飯能市街から、犬の遠吠えが聞こえ始めたのです。
その遠吠えは、数分の間にどんどんと広まり、ありとあらゆる犬が、もう飯能市じゅうのすべての犬としか思えない、とてつもない数とボリュームで、同時に吠え始めたのです。
もう信じられないくらい、何百匹あるいは千匹、あるいはそれ以上の犬が、同時に、雄叫びを上げ始めました。
一体何が起こったのかと、寝ている人も、きっと皆飛び起きたに違いありません。暫くの間は、時間とともにその遠吠えが、さらにさらに、さらに大きくなっていくのです!
セクション4:きっとおまわりさんがやってくる
これは大変なことになったと思いました。もう収拾がつかないのです。手がつけられない状態になりました。
きっとおまわりさんがやってくる。逮捕されちゃうんじゃないだろうか、とすごく不安な気持ちになりました。
「やばいよやばいよ!どうするどうする?!」
と言っても、とりあえず「何もしない」以外の選択肢はありません
(。>﹏<。)
人生、後にも先にも、あれほどいたたまれない気分だったことはありません。
対策としてなにかができるときはそれをしますが、何もできないということはなんと気持ちが落ち着かないものでしょうか。
とても長く感じられましたが、それはきっと10分ほどのことだったのだと思います。遠吠えは、だんだんと減ってきて、最後には静かになりました。そのときは、もう身体がコチコチの状態が続いたため、全身グッタリでした。本当に安堵しました。
この話は、それだけです。オチもなにもなくてそれだけなんですが、あまりに衝撃的だったので、いまでもこの話をしだすと、背筋がゾッとして、冷や汗がでます。
時は1975年(昭和50年)ごろのことだったと思います。
その頃に飯能市で、眠れない夜を過ごした人がいらしたら、本当にごめんなさい。
・・いまはとても便利な時代となり、若かりし生徒たちが雄叫びを上げた天覧山の山頂からの風景を、Google Mapの360度画像でご覧になれます [了]
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