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放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログ

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「君の名は。」を3倍楽しめる、美彗星の秘密 その2 どうしてあんなに空に拡がっているのか

      2016/09/27

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その2 彗星はどうしてあんなに空に拡がっているのか

「君の名は。」にでてくる彗星の尾は、「片割れ時」が終わったばかりの夜空を横断しています。ものすごく圧倒的です。こんなに広い角度でみえるのは、彗星がとても地球に近いからだと思われますが、もう少し深く知るとより感動します。

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1910年のハレー彗星がモデル?

尾の長さ(角度)が長かった彗星として有名なのは、1910年のハレー彗星(1P/Hallay)です。100年以上も前のことです。このときは、太陽に近づいた際の地球の位置がとても近かったため、尾は120度もの長さに見えたそうです。

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120度・・・地平線に彗星の頭があるとして、尾っぽは天頂を超えて反対側までみえるのです。どんなに壮大な景色だったでしょうか。ティアマト彗星は、ちょうどこの120度のイメージなので、モデルにしたのかな?と感じます。

ちなみに、そのときには、彗星の尾の中を、地球が通り過ぎるということで、「地球の空気が暫くの間なくなってしまう」という風説が流布されて、わりと騒ぎになったようです。下はそのときの説明図です(つるちゃんのプラネタリウムから転載)

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僕は、1990年ぐらいに栃木県の塩野室(しおのむろ)というところで訪問診療をしていたことがあります。そのときに、すべてのおじいさんとおばあさんにこのことを聞いて回りました。その中で90歳近いお二人だけ、覚えている方がいらして、「なんだかみんなお酒を飲んでいた」と話してくださいました。年代的に、直接お伺いする最後のチャンスだったと思います。

ハレー彗星は、76年に一度太陽の周りを回る彗星です。1910年のあと、1986年にも回帰しましたが、そのときは地球との距離の条件が悪く、あまり見栄えがしませんでした。次回の2061年はかなり条件が良いそうですので、生きている人はぜひ楽しみにしていてください。今から45年後のことです。いまティーンのみなさんはきっと見れますね!

ありえないぐらい近づいたティアマト彗星

映画ででてくるティアマト彗星は、地球と月の間まで来ます。こんなに近くなるのは「ほとんどあり得ない」&「ほとんど衝突寸前」なので、これが実際だったら、「彗星の周りに拡がっているチリが人工衛星に当たってしまうのではないか」など大騒ぎをしているはずなのですが、映画では、「素晴らしい見栄えになるでしょう」という、のんびりムードのニュースのみが放映されています(笑)

地球にものすごく近づいた彗星で有名なのは、1996年の百武彗星(ひゃくたけ)(C/1996 B2)です。この彗星も、日本人によって発見されました。

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百武彗星は、実はそんなに大きな彗星ではなかったのですが、「とんでもなく」地球に近づいたため、数日間だけですがものすごく明るくなりました。そのときの距離は0.1天文単位(0.1AU=Astronomical Unit)でした。「天文単位」というのは、地球と太陽との距離を1とする単位です(約1億5000万キロ)。0.1AUというのは、その10分の1。1500万キロぐらいまで近づいたのですね。百武彗星の尾は、そのとき最大で80度ぐらいまで拡がって見えました。

「君の名は」のティアマト彗星は、地球と月の間に接近していました。たしかこんな感じじゃなかったでしょうか?ちょっとうろ覚えです。太陽の方向は、三日月が一緒に見えていたので想像してみました。

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地球と月の間の距離はたったの38万キロです。映画の中のニュースで示された説明図では、最接近距離はその半分ぐらいでしたから、わずか15〜20万キロ。「とんでもなく」近づいた百武彗星が1500万キロで、ティアマト彗星は15万キロとすると、100分の1ということになり、これはちょっとありえないぐらい近い距離です。明るさは距離の2乗に反比例しますから、1万倍ぐらい明るく見えるはず。100倍違うと5等級違うので、10等級明るくなります(1等星が満月になるぐらい)。本当にこんなことが起こったら、壮大な景色になるでしょうね〜!!

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【余談】

ちなみに、僕は百武彗星を、相模湖のあたりで見たのですが、もう本当にすごかったです。超感動的でした。ずーっと「夜中じゅう」みることができました。普通、彗星は日没か日の出の近くの1時間ぐらいしか見れません。太陽に近いときに明るくなるわけなので、見頃のときには、太陽とくっついている*からです。なのにどうして夜中じゅう見れたのかというと・・・これは以前のブログがあるので、下にコピーしておきますね。ご興味のある方は御覧ください。

*「太陽との離角が小さい」といいます。

 

APR11/2002 [追悼] 百武さん急逝 百武彗星

996年の大彗星 – 百武彗星の発見者である百武裕司(ひゃくたけ・ゆうじ)氏が、4月10日午後7時47分、大動脈瘤破裂のために急逝されました。51才の若さでした。
天文ファンとしてはショックです。ここに百武彗星の思い出を書いて追悼としたいと思います。hyakutakehyaorb2

時計になった彗星

1996年3月、久しぶりの明るい彗星の出現に天文ファンは沸いていました。
C/1996B2 – 百武彗星です。
C/は彗星を示すCometの頭文字、1996は発見年、Bは1月下旬を表す記号で、2はその期間のなかで2つ目に発見されたことを示しています。百武彗星は、百武さんにより単独に発見されこの名前が付きました。複数発見の場合には発見時刻が早い順に3人まで名前が付きます。
*なお英語表記はComet Hyakutake。ハレー彗星だけは、はじめて周期彗星の周期を予言した功績により特別にHalley’s Cometと所有格で呼ばれる。

百武彗星の出現前の明るい彗星は、1976年まで遡らなければなりません。このとき私は中学生で、先輩に連れられてまだ雪の残る陣馬山頂に行きました。明け方の冷え切った空気のなか、昇ってきたウエスト彗星のひいている尾に心をときめかせた記憶があります(左写真:重枝昭広先輩撮影。左下が双眼鏡で観察している筆者)

comet_west
それから次の明るい彗星が出現するまで20年も待たなくてはならないとはその時は思いませんでした。それまでは10年おきぐらいには明るい彗星がやってきたからです。1984年のハレー彗星も、回帰条件が悪く、期待はずれの暗さに終わりました。逆に百武彗星後、今度はすぐ翌年にヘール・ボップ彗星がやってきて話題になったことはご記憶のかたもいらっしゃると思います。

百武彗星は、決して規模の大きな彗星ではなかったのですが、その特異な軌道により明るくなることが期待されていました。

通常彗星は右図のように太陽のそばを通り過ぎます。太陽に近づくと暖められて尾を出します。通常、近日点(periherion)付近で最も明るくなります。

comet1

 

そうすると地球から見た太陽と彗星の関係は下図のようになります。太陽と彗星はとても近い場所に見えるわけです。この角度のことを「離角(りかく)」と呼んでいます。

彗星が明るくなるときは太陽との離角が小さく、太陽が昇る前や沈んだ直後のわずかな時間帯しか見ることが出来ません。

comet2

ところが百武彗星は図上(図左=別の方向から表示)のような軌道を持っていました。太陽に近づく前の3月25ー27日に地球に非常に近づいたのです。

comet3

 

hyaorb2

再接近のときの距離は、太陽と地球の平均距離(約1億5000万キロ=1天文単位)の1/10でした。言い方をかえると、0.1天文単位まで近づいたのです。

このように地球に近づく彗星はとてもまれで、いままでにこの距離以下になったのは歴史上20個に達しません。

彗星が小さくて、かつまだ太陽から遠くても、地球からきわめて近いところを通るので明るく見えることが予想されたのです。

なおかつ特別だったのは、地球の上(北の方向)をかすめるような軌道だったということです。地球の北は、北極星のある方向です。北極星が一晩中見えることは皆さんご存じですね。

そうです。百武彗星は、地球の上をかすめた数日だけ一晩中見える(周極星になる)という、普通では考えられない状況になりました。

これは、名古屋市科学館のホームページの写真をもとに、説明用の文字と線を入れたものです。

Polar starが北極星で、ここから小びしゃくが延びています。そのすぐそばに百武彗星があり、一晩中見えていました。

comet4

夜、相模湖まで車を走らせて見た百武彗星も、こんな感じでした。
しばらく見ていて、はっとしました。

時間が分かる

時刻が分かるんです…!!

思わず身体が震えました。

それはこういうことです。彗星は、太陽の反対に尾をだします。だから彗星の尾を反対に辿れば、地平線の下にある太陽の位置が分かるのです。太陽の位置を時計の文字盤(このばあい北を向いているので反時計回り)のように考えると良いわけです。

左の絵のようなら午前2時頃、右のようならもうすぐ朝ですから、午前4時頃ですね。上記の写真も午前2時頃撮影されたものであることがわかります。

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このことに気づいて、ずっと2時間ぐらい、百武が空に描く時計の針が動くのを見ていました。軌道のことまで知る人しか分かり得ない不思議な感覚に、しばらく酔いました。

comet8

ちなみに時計のモデルは、グリニッジ天文台の24時間時計です。

greenwich24h

このようなサムネイル写真がインターネット上に残っています。原典はリンク切れで探せませんでした。これは百武彗星を1時間毎に多重撮影したものです。右上は多分午後8時頃、一番左下のものは午前3時頃でしょうか。

comet5

こんなすごい経験ができる彗星はもう一生やってこないと思います。百武彗星はすばらしい感動を残してくれました。実際の尾の見え方は下の写真のように細く長い感じで、美しかったのを覚えています。

百武さんはとつぜん彗星のように逝ってしまいましたが、百武さんの発見された彗星は、皆の心のなかで永遠の時を刻むと思います。ご冥福を心よりお祈りします。comet6

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