線虫を使って癌を早期発見 – 開発者の広津崇亮(ひろつ・たかあき)先生にインタビュー (最終):検査成績の真価
2017/04/24
ではさいごに、論文で結果として示されていることを端的にまとめておきますね。
1. 腫瘍培養液に対する反応の証明:腫瘍細胞を培養した上で、培養液だけを取り出し、これらを好むかどうかを検討した(胃がん、大腸がん、乳がん)→線虫はこれらの液体を好んだ。
※消化管由来の癌でない、乳がんにも反応!
2. 匂いに感じていることの証明:上記実験において、嗅覚異常を持つ線虫について調べた→嗅覚異常のある線虫は反応しなかった。
※匂いに反応している!
3. 尿に対する反応の証明:今度は腫瘍そのものではなく、尿に対して反応するかを検討した→線虫は、がん患者の尿を好み(20例中20例)、健常者の尿は忌避した(10例中10例)
※尿で検査できる=簡単に検診に用いることが出来る!
※少ない例の基礎実験では100%正確!
※ステージが早期のがんにも反応!
※胃癌(13例)、大腸癌(6例)に加え、すい臓がん(1例)にも反応!
4. 感度を正確に調べるために、多くの例で再検討(がん患者24例、健常者218例)
→ 感度が95.8%、特異度が95.0%
※腫瘍マーカー(CEA)の感度はたった25%ではるかに感受性が高い!
※がん患者24例中12例は、ステージ0か1の早期がんで発見!
※いろいろな種類の癌に反応!
この成績はすごいですよね。研究者からみてもこれはもう、圧倒的。ぜひ早く実現して欲しいものです!
広津先生にお伺いすると、この夢のような方法にも、まだ改善すべきところがあって、例えば以下のようなことがあるのだそうです。
- 室温はかなり厳密なコントロールが必要
- 今のところ線虫の数を数えるのは人間がしているので大量には処理できない(でもこれは割と簡単に解決しそう)
- 線虫が「腹ペコペコ」でも「超満腹」でも匂いに対する反応が変わるので、エキスパートが腹八分目的な線虫を選ばないとならない
最後なんかはなかなか微笑ましい (^^) わけですが、しかしとにかく、エキスパートであれば再現性を持ってできるそうなので、初期成績としてすごいことに間違いはありません。また、癌腫を特定できる方法にも部分的に成功しているので、今後の発展も望めそう。将来、匂いセンサーの開発につながれば、線虫くんを腹八分目に調整する手間も要らなくなります。
というわけで、今後大いに期待しましょう!
参考文献
・九州大学プレスリリース(1):尿 1 滴で短時間・安価・高精度に早期がんを診断
・九州大学プレスリリース(2):匂いと受容体の対応関係を解析! ―高感度匂いセンサ開発の期待―
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