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線虫を使って癌を早期発見 – 開発者の広津崇亮(ひろつ・たかあき)先生にインタビュー (4)大発見はこうして生まれた

      2017/04/24

アニサキスが早期胃癌に喰いついていた!

この大発見は、2年前の、胃内視鏡のエピソードに始まります。伊万里有田共立病院の園田英人先生(外科部長)が、胃痛で来院した患者さんの内視鏡検査をしたところ、アニサキスが胃壁に喰いついているのを見つけ、摘除しました。

アニサキス症というのは、鯖(サバ)などによく寄生していて、鯖を食べた際に胃の中に入ると、胃壁に食いついて激痛を生じるという、比較的良く知られた病気です。

ところがこの症例では「アニサキスの喰いついている部分に早期胃癌があった」という非常に稀な現象が観察されました。これがその写真(以下の論文から引用)です。

Sonoda H, Yamamoto K, Ozeki K, Inoye H, Toda S, Maehara Y.. An anisakis larva attached to early gastric cancer: report of a case. Surg Today. 2014 Aug 17

アニサキス

↑ちなみに、鉗子で引っ張ってもガキっと喰いつているので、患者さん痛かったでしょうね・・・ (TT)

まあとにかくこれは、びっくりする出来事ですね。園田先生はその後上記論文を書かれましたが、調べて見ると、それまでに世界で、アニサキスが胃癌に食いついていたケースが28回も散発的に報告されていたそうです。

注目すべきことに、Stageについて記載があった25例のうち18例がStage I(早期)でした。また腫瘍マーカー(CEA)は、計測された15例中たった1例で上昇してるだけでした。

このため、園田先生は、「胃がんからでる『微量の匂い』」にアニサキスが反応しているのではないか ( ̄— ̄)ニヤリ と思い、インターネットでこれに関して基礎研究をしている人がいないか調べたところ、ごく近くの九大にいる広津先生がヒットした、という、スゴイことなわけなんです。

アニサキスは鯖などの魚に寄生する大型(数センチの大きさ)のもの、対してC.elegansは土壌中に存在する小型(1ミリ)のものですから、相当違う線虫の仲間のですが、幸いな事に、匂いに関しては共に敏感なようです。


 

広津先生曰く「僕らは、線虫の嗅覚神経を詳しく調べていたのですが、それを一種の『センサー』として使おうという発想はありませんでした。世界の同様な研究者も、こういった発想はなかったと思います。園田先生からの話を聞いて、アニサキスと同類のC.elegansを、センサー(がんの検知)として利用できるのかもしれないと思いましたが、これはとても幸運なことでした」とのことです。

園田先生の洞察力と、広津先生がいままでされていた基礎研究が、奇跡の符合をみた瞬間でした。

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