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放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログ

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僕の奥さんが今日4回針を刺された

   

僕の奥さんが造影MRI検査を受けた。本来なら1回で済むはずのところ、4回針を刺された。特にその医療機関をdisりたいわけではない。ただ、痛かったろうと不憫に感じた。

病気でやせ細った身体ではない。ごはんは普通に良く食べるし、普通の体型だ。それでも、うまく刺してもらえず、何度も痛い思いをした。帰宅したときの腕をみて、ちょっとびっくりした。可哀想だった。

妻は検査のとき、少し緊張していたようで、また、少し寒かったらしい。「自分はそのときは余り血管が出なかったから」と言っている。「注射をしてくれた人が何度も謝っていた」とも言っていた。つまり、自分はどちらかというと良くない患者で、相手は悪い人ではなかったと言っていた。そう言えば、患者さんはそういうふうに言っていることが多い。


 

僕は小児科でキャリアをスタートしたので、細い血管は得意中の得意だ。ごく少数の例外を除けば、針を入れられない血管はまずない。「こどもの細い細い血管」にも入れられるし、その後は内科や救命救急の仕事をしたので「おじいさんの蛇行して固くなった血管」にも入れられる。奥さんの血管は、僕の眼には、土管のように太く、健康な人のそれそのものだ。あまりにも容易に見えるので、やってあげられたら良かったと感じた。

・・・でも実際には、こうやって失敗されてしまう患者さんがいる。ほぼ健康な僕の奥さんでこんな風だから、一体日本で、毎日何人の患者さんが痛い思いをしているのだろう、とふと思った。

そういえば、父が進行がんにかかり闘病していたときのことだ。父はステージIVの大腸癌(+多発肝転移)で見つかり、ぴったり1年の闘病生活の後に亡くなった。

がんは残酷で、元気で笑顔の人から、体力と気持ちを、だんだんと奪っていく。あんなに元気そうだったのに、いつの間にかやせ細った。

「造影CT」は標準的な経過観察方法だから、経過観察のたびに針を刺すことになる。僕がやればまず失敗しないが、CT室から帰ってきた父には、ときどき、今日の妻のような跡があった。僕が代わりにやればいいのだけれど、それはわがままで、後輩の経験にもならないから、不本意だけれど何も言わなかった。僕も医師の一人だが、造影検査を依頼する時に、「無視できない確率でがん患者さんが刺し直しをされている」ことに思いを馳せることは殆どない。なんとなく、100%うまくいくと漠然と仮定していると言っても良い。だから造影検査を非造影で済ませることにはあまり積極的な意識は持っていないことが多いように思う。


 

僕は、MRIの研究者で、幸運なことに、造影剤を用いず、被曝も受けず簡単に癌をみつけることができるMRIの撮影方法 ー DWIBS法(ドゥイブス法)を2004年に考案することができた。新聞の一面にも掲載されたし、その後学術的にはかなりの評価をいただいた。

しかしその普及をさせることができないでいた。ただの学者の一人だったということになる。だからその制度は世の中に存在せず、いちばん身近にいる人すら、その恩恵を受けられずに、ステージIVになるまで見つけられず、1年で父を失った。

そのことがあってから、これではいけないと思い、Body DWI研究会を発展させ、今春には学会から正式な1ジャンルとしての加算申請(先端技術)もしてもらい、最近では「無痛MRI乳がんドック」設立のことにもつながっている。

幸い、父に関しては、痩せた最後の方は、造影CTはお断りして、DWIBS法のみで経過観察した。だから、痛みもなく、寝ているだけで済んだ。見つけられなかったことは後悔してもしきれないが、最後は余計な痛い思いをさせなかったので、少しだけはよかったと思っている。

下の画像は父の経過観察の記録で、FDG-PETではなく、MRIで撮影したものだ。造影しなくても、被曝しなくても、こうやって経過観察はできる。PETでは苦手な糖尿病の人でも問題なく撮影できて、また事前安静が要らないので、病院にいる時間は1時間余りだ。付き添うと分かるがとにかく病院は長いので、これはとても助かる。


*注:2回めの検査は、本人同意による研究目的の撮影で保険診療では施行していません。

 

父が遺してくれたパンフレットを、久しぶりに見て、よしまた頑張るぞと、誓いを新たにした。

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