放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログ

放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログ

Tarorin.com 記事一覧

MRI技師さんの工夫と、撮像マイスター

      2017/04/24

2016年は、昨日(29日)、「メディカルスキャニング東京」での仕事納めとなりました。メディカルスキャニングは、東京・横浜・埼玉などに合計で19ものクリニックを擁する検査センターです*。

地図(一部)を見るとその多さに驚きます。ひとつひとつはMRI装置1〜3台ですが、全体では35台以上。大学病院の4〜10倍規模のユーザー(MRI装置購入者)に匹敵します。

*最初17と書いておりましたが、その後19施設に増えたそうです。20周年の来年は20箇所目(富士見台)が開設されるとのこと。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-12-30-6-01-08

ここでは多くの技師さんが、保険診療と検診に携わっています。

脳ドックのMR血管撮影(MRA)のファイルを開けると、担当技師さんからコメントがはいっていて「内頚動脈に見えにくいところがあったので、short TEの撮影を追加しています」と書かれていました。

その画像がこれです。左がルーチン撮影で、右が工夫した画像。左のルーチン撮影のMRAでは、矢印をしたところに、血管が細くなっているように見える場所があるのがわかります。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-12-30-5-55-30

(1) 乱流や拍動 (2) 画像のつなぎ目 (3) 患者さんの動き (4) 空気の近接、などによってこのようになってしまうことがあり、とくに血管が蛇行する部分には頻繁に見られます。

ですから、こういった所見(アーチファクト;偽像)は言わば織り込み済みであって、異常とは判断しませんし、通常は追加撮像の必要性もないとされています。

しかし右の画像は、「エコー時間(TE)を短くする」という工夫をして再撮像し、完全に正常だと断言できるほどになっています。おまけに、対象部分だけを抜き出し、見やすく表示しています。

専門家向け記述:short TEにして(3.86ms→2.01ms)turbulentとsusceptibilityによる影響を少なくし、この部分のみsingle slabで再撮影してinflow効果を大きく、段付きも無くし、かつWSで内頚動脈をsegmentationしてanterior circulationのみを選択表示している(FAは表示されていないため不明)。

 

私は、「へえ〜」とびっくり。初々しい感じもして、良い意味で印象に残る仕事でした。

さらに、その技師は、もう一つ、別の検査で「DWIで異常があるようなので、別方向の撮像を追加しました」とコメントを残していました。

1cm以下の、ごくごく小さな異常信号を乳房に見つけていたのです。詳細に観察すると、画像診断学的に乳癌の可能性が高い所見でした。

病変が見つかることは受診者さんには大変ショックなことです。しかし、非常に早い病期で適切な精密検査を受けられます。進行してから見つかるのとでは、雲泥の差を生じます。

専門家向け記述:DWIで8mm程度の高信号結節を認めました。サイズ的に検査限界に近いわずか2 pixel 程度のものですからADCは正確に測定できませんが印象としてはかなり低値で、癌の可能性が高いと思います。sagittal FS-T2WIが追加されていて、そこには明るい部分が存在しない(おそらくintermediate T2である)ことが分かりましたので、確信度が高くなりました。

 

この2つの工夫が、同じ人により為されていたことにより、私は彼に強い興味を持ちました。調べてみると横浜(店)で働いている技師さんです。電話をかけて、直接激励したいと思いました。

すでに年末の終業時間を過ぎていて、直接はお話できなかったのですが、年初にマネージャーさんから電話くださいと伝言を残しました。もちろん「ほめたいので」を付け加えました。私から名指しで電話がかかってきたとなったら、ものすごい緊張するはずだからです(とても名誉なことですが、最近これに困ってもいます)。

「マイスター」制度

ちょうど、システム担当者と年末の会議を行って、

  • 担当技師に直接コメントを送る機能が欲しい。
  • 指摘(クレーム)だけに傾いたら制度として続かないので、「いいね」などプラスの印象も送信できるようにしてほしい。
  • そして例えば「いいね」が5つに達したら、「5つ星マイスター」などとして忘年会などで表彰できないか。
  • 工夫だらけ(追加撮像だらけ)になって検査に遅滞を生じてはいけないので、適切に評価できる方法・頻度を考えながら作りたい。

といったことを話しあった直後の出来事でした。

タイムリーだったこともあって、今回の技師さんの工夫を見て、とても良い気持ちで仕事納めをさせていただいたという次第。


 

そんな気持ちでいたら、僕が電話していることを聞きつけた一人の若い技師さんが、「先生、どんなところが良かったんですか!?」と聞いてきてくれました。

その目は輝いていました☆

やっぱり皆、工夫をしたいし、臨床に役立ちたい気持ちが強いのです。人間ドックのようなルーチン作業では、とくにこういう意味でのモティベーションが重要だと思います。

来年はぜひこういう点を進めたいなぁ、と強く思いました。


 

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-12-30-10-43-18

NEWS2017年2月12日(日)浜松開催の第6回BodyDWI研究会では、「画像診断」(秀潤社)2017年2月号に掲載予定の「リフレッシャーコース(DWIBS)」の30分解説が行われますが、参加者に以下のようなフルカラー別刷りを無料で配布(最大300名)できることになりました。ものすごく写真が多いことにお気づきと思いますが、ウィンドウ調節が難しいFusionの模範画像も掲載されているので、保存版標準カラーチャートとしても使えます。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-12-30-18-02-25

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-12-30-10-43-33

 - 82 MRI, オピニオン

  「82 MRI, オピニオン」カテゴリーの人気記事

DWIBS法による全身DWI撮影の現状〜なぜSTIRが必要なのか
DWIBS法による全身DWI撮影の現状〜なぜSTIRが必要なのか

このページは、専門家のための医学的な記述となっております。一般の方で本法(DWI...

骨転移ガイドライン それでも骨転移はDWIで高信号を呈する
骨転移ガイドライン それでも骨転移はDWIで高信号を呈する

骨転移ガイドラインの新版が日本臨床腫瘍学会から発行されました。 &...

猫舌の治しかた
猫舌の治しかた

猫舌の人は多い? みなさんの中には猫舌の人がいますね。 卒業研究学生が調...