放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログ

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● どうして広く普及していないのですか

これにはいくつかの原因があるのですが、一番の理由は、マンパワーと、お金の問題です。

このドゥイブス法は、造影をしないMRI、つまり「単純MRI」というジャンルになります。いままでの常識では「造影MRI」のほうが、高価な造影剤を使うから、より良い検査でした。ですから値段は「造影MRI」>「単純MRI」なのです。

ドゥイブス法は、「造影しなくても、がんを見つける感度が高い」検査、いわば革命的な検査です。技術力により、造影剤を用いなくても癌を見出すというアプローチです。ただ造影剤を用いないので、値段は安くなります。

また普通は一つの部位(脳とか、上腹部とか)を撮影しますが、ドゥイブス法の全身検索では、3つの部位(頸部〜胸部・腹部・骨盤)を撮影します。だから時間もかかります。つまり撮影する人は努力する必要があります。

考えてみてください。革命により造影剤を使わない技術力があり、いままでよりもたくさんの部位を撮影している。

にもかかわらず、健康保険にはその価値に見合った特別料金設定がないので、”一部位を「単純MRI」で撮影したお金” しか、病院はもらえません。単純MRIの点数は約1800点(約18000円、3割負担でみなさんが支払う額は6000円あまり)。ですから、病院はやればやるほど、(努力が必要なのに)実入りが少ない検査になってしまいます。

読影も大変です。実は、多くの場合は簡単なのです。つまり、「がんの治療経過観察」ならば、「いままで見つかったものが大きくなっているか小さくなっているか」を主にチェックし、新しくでるものに目を光らせれば良いのです。しかし、はじめて診断するときは、他の病気もチェックしなくてはなりませんから、全身くまなく見るにはそれなりに負担があります。

放射線科医(画像診断医)で、この検査を読影した経験のあるひとはとても少なく、このために「読影が大変だ」という印象があります。実は、現場で導入を拒否する人が多くいます。みなさんはこれを聞くと憤るかもしれませんが、読影の現場はオーバーワークであることも多く、「大変だ」という印象が強いと、検討すらしない現状も非難することは難しいです。実際には「経過観察」ならば短めの時間で良いのですが、そもそもそれをまだ良く知らない現状があります。

こういった現状を改善するために、以下の活動をしています。

① Body DWI研究会

Body DW医研究会を作り、半年に一度の研究会で、目の覚めるような画像を供覧し、勉強の機会を作っています(まだまだ参加者が少ないので、今後さらに活動をしていきます)。見てもらえれば、「これは導入しないとならない」と分かるからです。認定施設を作ることで、認定していないひどい条件の撮影をしている施設も減らしたいと思います。

② 保険(加算)申請

保険の点数が合理的に高くなるよう、運動しています。患者さんにはこれは支払額が多くなることを意味しますが、しかし、採算がとれなければ病院は行いませんから、皆さんに届きません。継続的な(sustainable)な臨床使用のためには、その技術と努力に見合った料金設定も必要なのです。いまの状態は、その診断能力にくらべて極めて低い(例えばPETが30,000円に対し、ドゥイブスが6,000円=3割自己負担)ので、合理的な範囲で、患者さんが支払える程度の加算を目指しています。この春には、はじめて、日本医学放射線学会から、外保連に加算申請をしてもらえました。

③ 定量化(数字で、腫瘍の容積を表示する)

定量化をすすめます。いままで、骨転移の診断には「骨シンチ」が標準でした。この時にとても重要な指標(BSIといいます)を使っていました。BSIは数値なので、「どのぐらい骨転移があるのか」が誰にでもわかりやすく、これは広く受け入れらています。本当は、治療後は、BSIはかなりいい加減ですから数値として使用すべきでないのに、それを使用しようとする研究も認められるぐらいです。

ドゥイブス法ではながらく定量化(数値)がありませんでしたが、最近論文で定量化できることが報告され注目されています。日本でも、私と共同で研究している企業が、この7月に開発を成功しました。これを8/27(日)の Body DWI研究会で発表します。これにより、もともと骨シンチに比較して圧倒的に高精細であるドゥイブス法で、治療経過観察を数字で行うことができるようになり、皆さん(患者さん)にご提供できると考え頑張っています。

腫瘍(骨転移)の容積が250mL程度であることを示している画像。

おわりに

私は、こんなに患者さんのためになる検査が、まだ普及していないのを残念に思っています。普及のためには、みなさんの後押し(声)がとても助かります。応援をお願い致します。

Hands holding a red heart.

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