放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログ

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とても幸せな時 〜画像診断外来・MRI実験とともに 〜 2018年の誕生日を迎えて

   

今年の誕生日は、一日中活動しており、みなさんからFaceBookなどにいただいたお祝いのメッセージにも十分お返事できませんでしたが、患者さん、MRIに触れる一日で、大変幸せな時を過ごしました。

午前中は画像診断と外来を、また夕方から夜にかけてにはMRIの実験をいたしました。仕事に携われるのはこのうえない喜びだと再認識する、特別な誕生日となりました。

いまの環境に感謝し、今後もぜひこういったことを進めていきたいと思います。

午前:画像診断 + 外来

午前中は北九州の有吉クリニックで画像診断をしました。読影*だけのときは普段は白衣を着ないで仕事をします。

*どくえい=画像を見て診断レポートを書くこと。

 

そんな最中、「DWIBS(ドゥイブス)撮影を受けた患者さんが(別件で外来に)いらして、説明を聞きたいようなのですがどうしましょうか」という内線が入りました。

写真はその時の様子で、患者さんの許可を得て掲載しています。今日は白衣の用意がありませんでしたので、コンピュータを前に画像を説明しました。

「3分診療」問題のむつかしさ

私は、駆け出しのときは小児科医でしたが、外来は一番幸せを感じる仕事です。浜松や東京の病院でも、時間の許す時はこのように「画像診断外来」をしているのですが、とても手応えを感じます。

通常、内科外来などはきわめて多くの患者さんが来られますから、丁寧に画像の説明をするのはなかなか困難です。患者さん側からみると「3分診療」は悪評判の最たるものですが、しかし現実を見ると、仕方がないという側面もあります。

例えば、80人の患者さんが外来に来る場合、それを午前9時〜午後1時までの4時間(240分)に割り当てると、自然に一人3分になりますね。医師が不親切なのではなくて、訪れる患者さんの数と、外来の時間で決まってしまう、どうしようもない問題です。

『画像を説明する」外来

この「画像診断外来」では、しかし、画像について15分ぐらいもかけて、診断した当人がわかりやすく、動画を使ったり、白黒反転したり、カラーにしたり、前と比較したりしながら、指差しをして説明をするわけです。

患者さんにとっては、画像診断レポートをもらっても、それがどんな意味あいを持つことなのか、「ニュアンス」がとても知りたいと思うことでしょう。

例えば「肝血管腫(かんけっかんしゅ)=良性腫瘍」とか、「脂肪肝」「子宮筋腫」などと書かれているときに、では今後どうしたら良いのか、どの程度心配すべきなのか(心配しなくて良いのか)ということを知ろうとするのは当然です。

画像の説明を主な目的とする外来があれば、そういった疑問にお答えすることができます。

私は、必要に応じて絵(説明図)を手書きで書いて説明し、次に行うべきことの相談や、治療の先生への連絡などもして、患者さんが困らないように道案内をいたします。ニュアンスを知り、あるべき行動を知ることが重要なので、これに近づくように手伝いをおするわけです。

とくにMRIに関しては、できることの奥行き、広がりをよく知っていますので、相当具体的なアドバイスができます。

ただし、一人の医師がすべてを知っていることはあり得ません。ですからわからない点については、知ったかぶりをしないで「私の専門でないのでわかりません」と述べますし、そのときには分かる人にバトンタッチします。こういった道案内がとても大切だと思っています。

ニュアンスをお伝えする

「ニュアンスをお伝えする」という基本的なポリシーは、小児科研修医のときの経験に基づきます。

可愛いお子さんが入院されたときに、指導医がご両親に病状説明をしますが、その際に、ご両親は緊張されていて、「聞きたいことを聞けずにいる」ようすが手に取るようにわかりました。慶応大学附属病院に勤務していたときのことです。

慣れない病院、それも大病院に来て、こどもの病気で気が動転しているときに受ける説明ですから、無理もありません。

そして、「ああ、あれを聞けば良かった」とあとで悶々とします。

それが分かるので、本当はいけないことなのですが、面談後に、患児をガラス越しに見守っている*ご両親のところに行って、「今のお話は、こういったニュアンスなんです」とお伝えすることを善しとしていました。

病院ではオフィシャルな話として「〜の可能性もある」「〜の可能性もある」ということ(危険性)をどうしても列記して説明しがちです。すべての危険性を伝えなくては訴訟の原因にもなりますし、実際に治療がうまくいかないこともあるのですから、リスクを説明するのはある意味で当然です。

*新生児の場合、感染を防止するために、ガラス越しの面会のみ可能な病棟がある。

こころの安寧を

しかし、現実には、「8割ぐらいで大丈夫で、2割ぐらいはちょっと心配」といったような医学的な印象を我々は持っています。これを差し支えのない範囲でお伝えすることをしてきました。もちろん慎重に言葉を選んでお話するのですが、一番伝えたい情報は

今日のところはあまり心配しないで良いですよ。明日からのために、どうぞよくお休みください

ということなんです。

こういったことをお伝えするのは、それが患児(小児の患者)のご両親であれ、あるいはご本人が病気であれ、一番大切だと思っています。こころの安寧と希望が一番の薬ですね。そうやってみな元気を出して、毎日を過ごすべきだと思っています。いたずらに気休めを言うのではなくて、私どもが持っている雰囲気を共有するという観点です。

これを実施するには、どうしても、たおやかな雰囲気が必要で、それには時間がかかりますから、皆さんの要望をすべてこなすことはとてもできません。

しかし、DWIBS検査を受けた担癌患者**さんには「ぜひ画像診断外来をして欲しい」という方がとても多く、もう長いこと実現を待っていただいています。こういった外来を持ち、定期的に患者さんの相談に乗ることを考えたいと思います。

*がんを患っている患者さんのこと

私は、若いときに、栃木県の塩野室(しおのむろ)というところで、小さな診療所の内科医を務め、午後は往診に行っていました。外来でのみなさんとのふれあい、また一週間に一度訪れる、おじいちゃん・おばあちゃんとの往診の時間。

これは自分の人生の中でも最も幸せな瞬間で、自分にとっての「医療の原風景」になりました。またこのことについてはゆっくりと書きたいと思います。

夕方〜夜: MRI実験@滋賀医大

午後は、新幹線乗り京都で降りて、滋賀医大を目ざしました。

そこには、放射線科のみなさんが待っていてくれました。

造影CTでは時として診断がとても難しい「絞扼性(こうやくせい)イレウス*」のMRI診断。今回、このことを救命救急でぜひ実施したいと、滋賀医大の先生が考えてくれて、その実践方法を知り、また撮像パラメータを調整するために呼んでくださったのです。

① まず机上で、撮影理論やパラメータの在り方について議論

実験前会議(撮影法を机上で検討)。左から、太田新一先生、筆者、吉村雅寛副技師長、佐藤滋高(しげたか)先生。

*絞扼(こうやく)。締め付けられて血行がなくなること。診断が遅れると、腸が腐って重篤な腹膜炎を起こし死に至る。正確な緊急診断が求められる。私はこれを先駆的に手がけ、杏林大学・東海大学ではおびただしい数の緊急手術に立会い、MRI診断が正確に絞扼(こうやく)の有無を示すことを確信しました。

 

② 実際のMRI装置にパラメータを入力して、その機種(今回はGEのSigna HDxt Optima360相当)の特性に合わせます。

撮影方法(シークエンスパラメータ)を入力して撮像プロトコルを作る様子

 

③ ボランティアで実際に撮影し、設定したパラメータで良好な画像がでるかどうか確かめます。

ボランティア(スタッフ)のセットアップ時にパチリ。和気あいあいと進みます。今回はGEのOptima相当 Signa HDxtで撮影。

 

④ もう一度検討してパラメータをリファイン、プロトコルを確定し、別のボランティアで撮影して、実際に臨床に使える撮影フローを組み上げます。

以下は、そうやって撮影された結果。
良好な画像が10分ほど(DWI 1分30秒、Cine MRIは20秒/回×4回)で得られることを確かめました。
これで実際の患者さんが来られたときに撮影できる準備が整いました。

成功した撮影結果。息どめなしのDirect Coronal撮影。 若い技師さんのその場のアイデアで、今までは行わなかったmulti-b valuesで撮影することに決定。

MRI室前で記念撮影

 

滋賀医大の皆さんの熱意で、患者さんの撮影が今後実現することになります。絞扼の有無の診断は圧倒的にわかりやすくなりますので、今後を期待します。なお、内容について知りたい方は、以下のYouTubeのリンクをご覧ください。ROCにおける曲面下面積が(たった1分の読影時間で)ほぼ1.00という、驚異的な診断能力をお分かりいただけると思います。

  • Takahara T, Kwee TC, et al. Low b-value diffusion-weighted imaging for diagnosing strangulated small bowel obstruction: a feasibility study. J Magn Reson Imaging 2011 Nov;34(5):1117-24.
  • Takahara T, Kwee TC. Low-b value diffusion weighted imaging: Emerging applications in the body. J Magn Reson Imaging 2012 Nov;35(6):1266-73. Review.

 

実験後、滋賀医大に残っている、ドーナツ型のIVR用MRI、Signa SPを拝見させていただきました。このマシンは、MRIをしながら手術にも使えるように2つのドーナツリングで構成されているもので、発表された時は、そのかっこよさにしびれたものです。残念ながら近く廃棄されるとのこと。歴史的な遺産ですね。

新田先生と愛車のテスラ・モデルS

並行する動物実験で参加できなかった井上明星(めいせい)先生がかけつけてくれました。かれは虫垂炎のMRIなど、腹部救急疾患に存分にMRIを利用しています。左は大田先生。

 

その後、お食事会を開いていただき、夜遅くまでいろいろな議論をしました。
准教授の新田哲久(のりひさ)先生が、なんと、テスラでお迎えをしてくださいました。びっくりしました! 新田先生は、車の俊敏性にとてもピュアなお考えをお持ちで、意気投合しました。

また、並行する動物実験参加のため、どうしてもMRI実験に参加できなかった井上先生が合流してくれて、MRIばなしで盛り上がりました。

本当によい一日を過ごせました。一緒に仕事をしてくださったみなさんに心より御礼申し上げます。

 - 08 MRI・医学, 09 こころ, 42 テスラ, 80 DWIBS, 82 MRI

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