放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログ

放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログ

Tarorin.com 記事一覧

骨転移ガイドライン それでも骨転移はDWIで高信号を呈する

      2017/04/24

骨転移ガイドラインの新版が日本臨床腫瘍学会から発行されました。

スクリーンショット 2015-11-25 12.50.32

 

その中に、骨転移の、DWI上の信号強度のことが書いてあります。
スクリーンショット 2015-11-25 12.55.11

上記によると、造骨型は「不明瞭」で、骨梁間型は「等信号」となっています。

これは、明らかにナンセンス。

無治療の骨転移は、どちらのタイプも高信号を示します。念の為に書いておくと、「DWIBSでは」どちらも高信号を示します。

なぜこのようなことが言われだしたのか不思議です。どの程度しっかりとした初期経験があるのでしょう。誰かが言い出して、「そうかもしれない」「さもありなん」ということでよく検証されずにここまで来てしまっているように思います。

最初のとっかかりを間違って書いてしまうことの責任は大きい。なぜなら、それを覆す「エビデンス」を出すのに大変な努力が要るからです。おまけに勇気も必要になります。

「しっかりした量の初期経験」と「圧倒的な傾向を感じる直感力」はすごく大切。

一刻も早くこの誤解を解かないといけないと思っています。DWIBSでは、無治療の骨転移はほぼ間違いなく高信号。例外はむしろまれです。もちろん議論を始める場はBody DWI研究会。エビデンスの構築を急いでもらいます。

これからもぜひみなさんの力を借りたいです。

・・・それにしても、なぜこんなことに。割と困ってます(;´д`)トホホ…

 


(追記)その後FaceBook上で重要なやりとりがありましたので、その中で差し支えないものを以下に追記します。

追記1「未治療である」病変は少ないことに留意してください

それから、誤解があるといけませんので、重要な点を追加します。「未治療であること」をきちんと確認するようにお願いします。治療(ちりょう)すると、治癒(ちゆ)するときに頻繁に再石灰化を来します。この場合CTでは石灰化が認められ、かつ拡散強調画像では光らなくなると言う状態が発生します。この状態は、「造骨性骨転移だが拡散強調画像で光らなかったケース」と記憶される恐れがあるでしょう。
ここまで書けば皆様お分かりと思いますがこれは「治療された(治癒している)」状態であり、これこそが拡散強調画像を用いて治療効果判定に使えるという最も重要なロジックなのです。


 

(2016/2/9追記:上記の記述をわかりやすく箇条書きにします)

懸念事項

  • 治療が奏功する→治癒するときに石灰化する(ことがある)=治癒に伴う良性の石灰化
  • → 石灰化を伴った「元転移」の病巣になる(腫瘍活性はない、治癒している)
  • 腫瘍活性がないのでDWIで低信号を示す
  • これをもし「(生きている)転移巣」「未治療の転移巣」と誤認すると、
  • → 石灰化が(+)で転移(+) だから「造骨性転移」。しかしDWIで低信号!
  • → 「DWI陰性の造骨性骨転移」という解釈をしてしまう懸念がある。
  • 正しくは 「腫瘍活性がない元転移病巣」なのでDWIではこれを正確に反映して低信号を示した状態。

臨床的には、未治療の状態で石灰化を生じている骨転移と言うのは、例えば放射線科でその1人の患者さんを診るとき、1回しか遭遇しないまれな画像所見です。その後に繰り返し行われる検査はすべて治療後の状態です。ですから圧倒的に治療後の状態が多い。こういった状態を誤認している懸念があります。

もちろんこれは確定した事項ではなく、どの程度そうなのかと言うことをきちんと検証していく必要(つまりこれがエビデンス作り)があります。しかし現時点で、「造骨性骨転移が光らない」という記述は、事実と全く反対のことを言っている可能性が高いのです。

追記2 想像により印象が支配されていないか留意してください

「石灰化があることにより、拡散強調画像上の信号強度が下がるのではないか」と言う気持ち(例えば線維化の時に水が少なくなることからの想像)が背景にあるように思います。ひょっとしたらそういう効果もあるかもしれませんが、事実として経験する未治療の造骨性転移はみな高信号。その想像は限りなく間違いに近いことになります。

研究会で前立腺癌の造骨性転移で光らない症例の供覧を見たことがあります。自経験ではないのでこれについては詳細がわからないし、仮にあったとしても、まれなケースです。教科書で教えるとしたら、ほとんど高信号と言わないといけないはずです。


以下は関連が薄い私の疑問→

世の中には不思議なことがあって、リンパ節に転移を生じるとなぜかADCがキレイに下がる。悪性リンパ腫ではこれはまず間違いなく正しい。しかしそれ以外の転移リンパ節では、本当に「本当」なのか、私にはまだわかりません。b=0とb=1000(SI, RL, AP)の各々において、あれほどズレた画像でなぜ美しい結果が出るのでしょうか。私達がDWIBSで食道がんを検証した際のリンパ節は、わずかですが悪性の方がADC高値でした*。

* European Radiology Volume 19, Issue 6, pp 1461-1469
“Mean ADC of metastatic lymph nodes (1.46 ± 0.35×10−3 mm2/s) was significantly higher (P < 0.0001) than that of nonmetastatic lymph nodes (1.15 ± 0.24 mm2/s), but ADCs of both groups overlapped. “

リンパ節を構成しているのは小円形細胞の密集です。ここにやってくる転移細胞(普通は大型)の集簇が、正常のリンパ節細胞集団よりも常にADCが低くなるというのはむしろ理屈には合いません。われわれの食道がんの研究では、ごくごく自然にROIを置いて、その結果(たまたま)悪性のADC値は高値でした。しかしこれはそんなに不思議ではないですね。測定の正確性(が不正確であること)にも関連して、十分にあり得ることだと思います。

不思議なのは、こういう結果がたくさんの論文で出ても全くおかしくないのに、既出の論文ではなぜかほとんどがmetaに対してADC低値であることです。

 - 71 ニュース, 80 DWIBS, 82 MRI

  「71 ニュース, 80 DWIBS, 82 MRI」カテゴリーの人気記事

DWIBS法による全身DWI撮影の現状〜なぜSTIRが必要なのか
DWIBS法による全身DWI撮影の現状〜なぜSTIRが必要なのか

このページは、専門家のための医学的な記述となっております。一般の方で本法(DWI...

骨転移ガイドライン それでも骨転移はDWIで高信号を呈する
骨転移ガイドライン それでも骨転移はDWIで高信号を呈する

骨転移ガイドラインの新版が日本臨床腫瘍学会から発行されました。 &...

ドイツ・アーヘン訪問 〜 非造影乳癌MRI検診の提案
ドイツ・アーヘン訪問 〜 非造影乳癌MRI検診の提案

アーヘン(Aachen) ドイツのアーヘン(Aachen)にやっ...