放射線科医・MRI専門家の高原太郎個人ブログ

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テスラ モデルXによる事故の中間報告

      2018/04/02

先週米国で、モデルXが、高速道路の分岐壁に衝突し、ドライバーが搬送後死亡するという事故がありました。これに関してテスラ社から英語のコメントが発表されたのでこれの和訳を速報します。

 

【ポイント】

・Autopilotが(運転者がスイッチを入れて)作動中だった。
・事故の6秒前までにハンドルを握っていない警告を複数回システムは出していた(運転者はこれに応答していなかった(理由不明))
・致死的な事故になった一つの原因は、この事故(A)の前の事故(B)により、衝突緩衝装置 (crash attenuater)が壊されていたため、有効な緩衝効果がない状態で非常に細いものに(つまり面圧の高い状態で)衝突したことで、事故Bは飲酒運転疑いのプリウス(手動運転)により引き起こされた。
・Autopilotは、米国政府の調査(昨年)により、事故を40%低減したことが報告されている。
・平均的には8600万マイルごとに死亡事故を起こすが、AutoPilotを具備したテスラ車両は、3億2000万マイルごとで、3.7分の1になっている。
・「Autopilotは危ないので使わない」というのは間違った考えで、テスラ車のAutopilotと同じ安全性の車だけになれば世界で生じている125万件の死亡事故を、90万件ぶん減らすことができる。

なおこの事故は、衝撃がものすごくて車の前半部分がなくなってしまいました。衝突によりバッテリーにも損傷が生じたため(普通は生じない)バッテリーはパンパンという音をたてていましたが、爆発はしておらず、運転者を助け出すことができました。その後、徐々に火が拡がってバッテリーに達したところで爆発しました。以下は目撃者談です。

 金曜日の朝、出勤中にこの事故を目撃し、911(米国版の110番)に通報しました。衝突によりテスラのフロント部分は完全に剥がれ落ち、ドライバーは、意識を失い、鼻と口から出血していて、前から丸見え(むき出し)の状態でした。最初のうちは火が弱く、30秒毎にバッテリーが破裂(注:blew out, 爆発より小さな破裂)していました。沢山の人達が消化器とともに駆け寄り、何度も火を消し止めていました。しかし、数分後には消火が手に負えないと判断し、うち6人が衝突現場まで走り(彼らはとても勇敢でした)ドライバーのシートベルトを外した後、衝突した車から少し離れた場所に移動させました。

すると、破裂を繰り返していたバッテリーに火が移って、今度は爆発しながら宙を舞いました (launching into the air)。負傷したドライバーは事故現場から、より遠い場所に移動させられました。消防隊が来る頃には、炎は燃え盛り、手に負えない状況になっていました。消防隊が火を消し終わるまでに数分かかりました。 事故に巻き込まれたマツダのドライバー側のクォーターパネル(注:車のバンパーとドアの間の側面部分)は剥がれていました。もう一台の車は、大きな損害は被らなかったようです。マツダのドライバーは負傷しなかったものの、事件後はどこかしらの筋肉に痛みを感じていることでしょう。

昨夜はこの事件のことで頭がいっぱいでよく眠れなかったため、現実と私の証言に相違が合った場合は、申し訳ないです(集中力が散漫になっているという意味で) 。事故現場にいた人々は皆全力を尽くし、人命救助と混乱の収拾にあたっていました。 自分の命も顧みず現場に飛び込んでいった人々のことを思い返してみると元気が湧いてくるとともに、テスラのドライバーが生き延びることができなかったことに対してはとても落ち込んでいます。

I witnessed this crash on Friday morning while heading to work and stopped to call 911. The whole front of the Tesla was sheared off in the collision exposing the guy who was unconscious and bleeding from his nose and mouth. The fire was small at first as a battery blew open every 30 seconds. A bunch of guys ran over with their fire extinguishers and put out the fire multiple times. After a few minutes, they determined that they couldn’t control the fire and 6 of them ran into the area (those guys were extremely brave), unbuckled the driver and carried him a distance from the vehicle. Then the batteries began launching into the air as they caught fire and exploded. The injured man was moved further away and the fire began to go out of control as the firefighters showed up. It took them a few minutes to put out the fire. The Mazda’s front driver side quarter panel was ripped apart and the other car didn’t seem to sustain huge damage. The guy in the Mazda was uninjured but I am willing to bet that he is probably feeling a lot of sore muscles today. I kept thinking about it all last night and didn’t sleep well so if there are any gaps, sorry. Everyone did everything they could to get the situation under control and save the man’s life. I am energized when thinking about all the people who jumped in to help at the risk of their own safety but depressed that the guy didn’t make it.

テスラからのコメントは以下のとおりです。Autopilotにより全体として事故率がうんと下がっていることは大変重要だと思います(つまり統計をとると、人間のほうがトータルで信頼性が遥かに低い)。しかし現時点でAutopilotを過信することはできないということもまたこの事故は示していると思います。現時点における疑問点は、なぜ警告がでていたのにドライバーが反応していないのかということです。私はユーザーの一人ですが、警告は音と光でなされ、すぐにハンドルを握らないと解除されてしまい、面倒を生じる(どこかに停止して、パーキングに入れないとAutoPilotの再作動を許されなくなる)ので、3秒ぐらいもあればハンドルを握ります。

運転者になにかの症状があったのかもしれない可能性を示していると思います。また、衝突した分岐帯(コンクリート)には、通常はその手前にガードするためのもの(crash attenuater; attenuateは減少させる, 衝突緩衝装置)がついているのですが、最近生じたマイナーな事故の影響で壊れていたということで、これも不幸な結果の一因にはなっています。これがどうして生じたかというと、”because an alleged drunk driver in a Prius hit the smart cushion at 70 miles an hour — he walked away with minor injuries.[リンク]” と書かれており、飲酒運転疑いのPriusが時速70マイル(時速約110キロ)で衝突したことによるものだそうです。またドライバーは軽微な外傷のみで、歩いて外に出れたと書いてあります。致死的なな事故を引き起こした遠因が、人間による飲酒運転だという事実は、これまた考えさせられます。今後は、運転者が覚醒状態であることを確認することの重要性が議論されていくと思います。

ただ疑問点は、Autopilotが作動していたならばなぜ前方障害物を検知できなかったかということです。丈の低い障害物は検知しにくいのかもしれません(車の「車高」があると検知しやすい)。

なお、テスラ車のAutopilotは、メルセデスと同じ部品のレバーを一回引く(メルセデスのように)と、いわゆるレーダー・クルーズ・コントロール(メルセデスで言うところのディストロニック、テスラではアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)と呼んでいる)が作動します(=レベル1)。このACCは、前車との車間を1〜7の7段階に変えることができます。1(最小)にすると概ね0.7秒ぐらいの車間になると思います(筆者の経験による)。

レバーを一回に2度引くと、AutoPilot状態になります(=レベル2; “Autosteer(自動ハンドル)“と、Adaptive cruise controlの両者が動作する)。

 

先週おきた事故の最新情報

 

テスラチーム 2018年3月30日

最初の報告をお届けして以来、我々は、先週の事故に関する事実を確かめるために可能な限り努力してきました。私達の心は、この惨事で影響を受けたご親族、またご友人とともにあります。

我々にとって、お客様の安全は第一である故、研究者と共に、何が起こったのか、二度とこのような事故を将来起こさないためにどのような工夫をすればいいのかを調べています。
私たちは事故車両の中にあったコンピューターのログを復元し、何が起きたのかという考察につながる新たな情報を入手しました。

3月23日金曜日9:27 amの衝突の寸前、Autooilot(注:ここではAutosteer(自動ハンドル機能)を指す)と、最小車間に設定したAdaptive Cruise Controlが作動していました。ドライバーに対しては複数回の視覚的警告(注:テスラの場合は、インパネの端部分が明滅する)と、一度の音声警告がなされていました。衝突までの6秒間、ドライバーの手はステアリングに感知されていませんでした(=ドライバーはハンドルを握っていなかった)。ドライバーには(以前の事故で壊れてしまった)衝撃減衰装置を手前に具備するコンクリート分離帯にぶつかるまでに約5秒間の猶予と150メートルの障害のない視界がありましたが、車両の記録(ログ)はドライバーによる一切の行動を記録していませんでした。

この事故がここまで重大なものになった原因としては、crash attenuator(高速道路にある、コンクリートでできた分離帯への衝突時の衝撃を和らげるバリア)が以前の事故で壊れていたにも関わらず、新しいものに変えられていなかったということです。モデルXに対するここまで大きなダメージは前例がありません。

(↓高原注; crash attenuater(通常の状態))

(↓高原注:事故現場のcrash attenuater(その前に生じた事故によりもともと壊れていた))

1年余り前、我々の初期バージョンのAutopilotは、米国政府の調べにより事故率が40%程減少するということが認定されました。我々の内部データでは、Autopilotの最近のupdateにより、さらに信頼性が向上していることが確かめられています。

アメリカでは、全ての製造会社による全車両の統計で、8600万マイルに1件死亡事故が発生しています。一方オートパイロット搭載のテスラ車は、3億2000万マイルに一件(歩行者死亡事故も含む)自動車死亡事故が発生しています。もしあなたが、Autopilot搭載のテスラを運転しているのならば、あなたが死亡事故に遭遇するのは3.7倍も低い確率です。

テスラのAutopilotはもちろん全ての事故を回避することはできません。事故ゼロを標準とすることは不可能ですが、事故に遭遇する可能性は非常に低いです。これが、乗組員、歩行者、そしてサイクリストに安全を提供していることは明確です。

起こっていない事を知る余地は誰にもありません。人は、起きた事故だけを認知できます。世間の、「Autopilotは安全性が低いから使わない」という間違った考え方から生まれる結果は非常にシビアです。世界中で125万件の死亡事故が起きています。もし、現在のテスラ車両の安全レベルが世界中に適用されたとするならば、現在の死亡数よりも、90万人もの命が毎年救われることになります。我々は、自動運転機能搭載車が、通常の自動車よりも10倍安全になることを求め続けています。

過去に統計的安全率(statistical safety points)を発表した際、今回のような悲惨な事故に対する我々の気持ちが欠けている(それを発表したことにより、という意味で)という批判を受けました。私達は、テスラに信頼をおいてくださっている方々のことを考え、彼らに深く感謝しています。一方で、我々は今と未来に生きる人々のことも考え、オートパイロットの品質向上にも務めなければなりません。起きてしまった事実、それから、我々の被害者と親族、ご友人に対する同情と申し訳ない気持ちは、なにがどうあろうと変わりません。亡くなった方の関係者にお悔やみ申し上げます。

 


 

以下は私見です。自動運転に関しては、レガシィや多くの車種が採用するレベル1や、テスラが先鞭を切り他社も追従しつつあるレベル2など様々なレベルや実装内容の違いがあります。ところがユーザーとして日常的に使い、熟知している人が極めて少ないので、どうしても「感覚的な」議論になりがちです。とくに国内での意見の多くは、原文(英語のことがほとんど)を十分に吟味せず、「専門家だから知っている」といったようなきわめて曖昧な根拠で、的はずれなことを書くこともとても多く経験します。従って、すくなくとも読者は (1) 英語をきちっと読む人なのか (2) これまで書いてきたことに原典をきちんと引用する傾向があるのか(他人の意見を引用するのではなくて、より事実に近いことを引用しているのか)といったことを見ておくと良いと思います。エンジン車はアナログに捉えられがちですが、エンジン車すら膨大な電子制御がなされています。しかし古くからの自動車評論家が新しい技術を勉強し直しているケースはとても稀です。

例として、この文章を挙げておきたいと思います。この評論家は、ブログ(該当記事リンク)の中で、タイトルを、

「モデルS」と表示するタイトル

としていますが、まず、車種はモデルS(セダン)ではなくて、モデルX(SUV)です。本文にもモデルSと書かれています。簡単な書き間違えと考えるかもしれませんが、ユーザーならば写真からすぐにわかるので全くありえない間違いですし、本文の中で、複数の専門家と話し合ったように読める記述もありますから、車体構造の安全性を論じているのにセダンかSUVかに皆気付かないというのも不思議です。この評論家はレースでもモデルSを運転しています。誰にも間違いはありますが、このことすら推敲されていないのは残念です。

また、本文中で、

と述べていますが、「テスラだから隠そうとするだろう」という全く根拠のないことを述べています。また、バッテリーの本数を教えないから信用しないということですが、電気自動車の、とくにテスラのバッテリー構造は最初の時期はとくに秘匿性の高いものでした。どうしてテスラだけバッテリーが長寿命なのか、どうしてテスラが加速が良いのかといったことにかかわる根源的な情報ですから、そんなに簡単にはリークすることはしません(これは一般に「企業秘密」といいますね)。そもそも英文が読めるならいくらでも資料はありますから、専門家には、それを調べるぐらいの能力ややる気が必要なのだと思います。

またこの評論家は、別のとき(該当記事リンク)に、

といったようなことを述べられています。「車を知っている人が作っている」など、とても褒めています。これは1年前ですから、バッテリーのことを教えてもらえなかったのは遥かに昔のことです。バッテリーのことを教えてもらえない昔は信用せず、しかし一年前には褒めていて、今回は信用しない、と言った、全く逆の印象が脈絡なく書かれています。

この評論家は、これまでの車の基本内部構造には詳しいのは誰しもが尊敬をするところですが、その人が新しい電気自動車の(とくに電気周りのことや、AIのこと)を知っているわけではありません。集学的に技術を進歩させているのですから、「いままで詳しい」「ここが詳しい」人のいうことが、「新しいことにも詳しい」「全てに詳しい」「英語もしっかり読んでいる」「科学的な評価方法を知っている」こととは必ずしも一致しない(むしろそれは有り得ない)ということを知ってユーザーは判断すべきだと思います。

なお個人的には、これまでの意見やコメントにはとても尊敬できる部分があり、これはこれで私は慕っています。しかし、間違っていることや、適切でないことは堂々と述べたいと思います。以前、テスラの航続距離表示がてんで使い物にならないという意見を読んでぶったまげたことがあります。テスラの航続距離予測は、グラフを用いて明示的に表示する画期的なもので、現存するものでは最高の正確性であることを経験しています。このグラフ表示機能を知らないで書いていたこともわかり、「やっぱり日常ユーザーでないと知らないこともあるよなぁ、知らないで書かれちゃうと・・・」と感じたこともありました。

とくに、アクセス数が多い方は、これからは「感情論家」ではなく、きちんとした「評論家」としての活動をしていただきたく思います。私達のようなアカデミックなところの人間は、研究発表をするときにCOI(conflict of interest)を述べます。つまり、企業からお金をもらっていたりするときはそれを開示しています。こういったことが現在の評論には全くありませんから、なかなか中立的になりにくいという構造的な問題もあり、中立性を担保するためには、やはり引用はしっかりするということが基本だと思っています。

COIは、ウェブではとくに行う必要はありませんし、お金をもらって専門家が生計を立てるのは当たり前です。学会の場でもそういうことはよくありますので、何ら恥じることはありません。ただ、より公平な場(学会など)では、これを示すことでより判断がしやすくなるという精神で行われています。また意見が変わることは人間誰でもありますから、それは何の問題もありません。以前と違う意見を持ったならば、「自分は絶対間違えない」という無理な前提に立たず、「こう思っていたけれど見込み違いだった」というセンテンスで書けばいいだけのことだと思っています。知ったかぶりをしない、間違ってたら間違ってたと素直に言うほうがストレスがありません。見立てが異なることはいつでもあるわけですので、より自然に述べるということが、冷静に議論するのに良く作用すると思います。

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